【社説】大麻摘発が過去最多 若者に早期のリスク教育を

 

 若者を中心にした大麻汚染への懸念が募る。

 先月公表された2023年の大麻関連の摘発者数は6482人で、過去最多となった。長らく違法薬物の代表的存在だった覚醒剤の摘発者数を初めて上回った。

 大麻の摘発者の7割以上は10~20代だ。とりわけ年度替わりに新たな環境で進学や就職を迎える若者は、細心の注意を払う必要がある。社会全体の問題として危機感を共有したい。

 摘発が急増した要因は、誤った情報の流布だろう。「大麻は無害」「依存性はない」「外国では合法」。交流サイト(SNS)やインターネット上には、心身への影響を軽視した誘い文句が氾濫する。

 若者ほどこうした情報に接しやすく、影響も受けやすい面は否めない。

 警察庁の23年の調査では、摘発者の76・4%が大麻の有害性を認識していなかった。覚醒剤だとその割合は10%程度だ。軽い気持ちで大麻に手を染めている実態が浮かぶ。

 近年では日本大アメリカンフットボール部の学生寮での事件をきっかけに、問題がクローズアップされた。大都市圏だけでなく、地方に広がっている事実も見逃せない。

 福山大では1月からおとといまでに、サッカー部員だった5人が立件された。全国大会に出場した主力選手も含まれる。体への影響はもちろん、人生を狂わせるほどのリスクを再認識してほしい。

 大麻には脳に作用する成分が含まれる。特に青少年期には正常な成長を妨げ、精神疾患を引き起こしかねない。

 覚醒剤など他の薬物使用のきっかけになりやすいことから「ゲートウエー(入り口)ドラッグ」と呼ばれる。好奇心や興味が命取りになると肝に銘じたい。

 海外では嗜好(しこう)用として認めている国も一部であるが、勘違いしてはいけない。大半は国の管理を強めるのが狙いで、有害性から未成年者の使用は禁じられている。

 日本に大麻の使用罪がないことも、拍車をかけたとの指摘がある。捜査で成分が検出されても所持していなければ罪に問われなかった。

 昨年末の法改正で使用罪が創設され、今年中に施行される。しかし、摘発者が増えるだけでは困る。

 大麻汚染に歯止めをかけるには早期のリスク教育が重要なのは明らかだ。では、いつ、どのようにして正しい情報を伝えるのが効果的だろうか。

 23年に摘発された20歳未満を年齢別に見ると、19歳が最多の43・2%を占め、18歳が27・4%で続く。データ上は18~19歳の危険性が高い。

 進学や就職で環境が一変し、不安も抱える中で、法律上は成人としての自由を手にする。自分を守る知識やすべを身に付けるよう、自覚を持たせる教育が一層重要になる。家庭の支えも必要だ。

 大学や企業はこの春迎える若者に、大麻の怖さや有害性の説明を尽くしてほしい。警察や行政の手を借りてもいいだろう。学生や従業員だけでなく、自らの組織を守る上でも大切な教育である。

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