日向坂46「君はハニーデュー」MV分析 原点回帰と未来への決意、過去作のオマージュも

2019年3月27日に1stシングル『キュン』でデビューを果たした日向坂46が、デビューから5周年記念日となる今年3月27日に公式YouTubeチャンネルで11thシングル表題曲「君はハニーデュー」のMVを公開した。青空を思わせる爽やかなサウンドに加えて、ポップな歌詞が印象的な同曲は、歴代のセンターの振り付けを取り入れながらも、新しい日向坂46への決意が示されている。

上村ひなのがセンターを務めた前作シングル『Am I ready?』から約10カ月ぶりとなる今回のシングルでは、新たに選抜制を採用し、四期生の正源司陽子がセンターに抜擢されたことでも話題となった。それだけに、これまで以上におひさま(日向坂46ファンの呼称)からもさまざまな意見が巻き起こったが、「君はハニーデュー」を聴いて率直に感じたのが、そういった声を吹き飛ばすほどの日向坂46らしさが詰め込まれていたということだ。今回、「君はハニーデュー」で作曲・編曲を務めたのは日向坂46にとってはおなじみの野村陽一郎。これまでに「キュン」や「ドレミソラシド」」といった日向坂46を代表する楽曲を数多く手がけ、グループの世界観を構成する一助を担ってきた。彼の存在なく、現在の日向坂46を語ることはできないと言っても過言ではない。

日向坂46の草創期の楽曲をリリースしてきた彼を起用した理由のひとつは、やはり原点回帰という意味合いも含まれているだろう。ここ数年の表題曲は日向坂46らしさに囚われることなく、柔軟に挑戦してきた印象があるが、本作は「キュン」や「ドレミソラシド」のような初期の日向坂46らしいフレッシュなサウンドと、〈君はハニーデュー 甘いメロンさ〉〈イチゴ バナナ オレンジにマンゴー/アップル グレープフルーツ マスカット〉といった歌詞のポップさが絶妙に共存している。これぞ日向坂46と言えるような楽曲で、心機一転、新たな未来へと走り続ける彼女たちを表しているようだ。

今回の映像は、Crispy Camera Club「待ち合わせは月の下で」やimase「恋衣」といったアーティストのMVだけではなく、櫻坂46の小田倉麗奈「オダクラップ」も手がけている濵田明日也が担当。日向坂46の映像を手がけるのは今回が初めてとなるが、日向坂46の世界観を熟知した構成と、センターの正源司を透明感たっぷりに描き出す映像美が美しい。

本作MVのテーマは「未来の自分との対話」。自分に自信のなかった一人の少女(MVでは正源司)が、未来の自分との対話を重ねながら自信をつけ、日向坂46を未だ見ぬ世界へ連れていくというストーリーとなっている。正源司と言えば、17歳という年相応の無邪気で愛嬌のある一面もあるが、ステージに立つと人が変わったかのように大人びた表情を見せるギャップが魅力のメンバーだ。冒頭でまっすぐ鏡を見つめる凛々しい表情から一転して、笑顔弾ける表情で廊下を駆け抜けていく正源司。メンバーを見つめる目の輝きと屋上で繰り広げられるフォーメーションダンスでは、彼女の存在感が一際目を引いた。そして、理想の世界へと迷い込んだ正源司が、日向坂46のメンバーに感化されて次第に笑顔でパフォーマンスをする姿が現在の日向坂46を表しているようで感慨深いものがある。

本作には歴代センターを象徴する振り付けがBメロで描かれており、小坂菜緒は「キュン」、佐々木美玲は「アザトカワイイ」、加藤史帆は「君しか勝たん」、金村美玖は「ってか」、丹生明里は「One choice」、上村ひなのは「Am I ready?」、佐々木久美は「君は0から1になれ」のポーズが立て続けに披露される。それだけでも、往年のおひさまにとっては感動的ではあるが、ラストに正源司が扉を開けてヘリポートが設置された屋上へと意を決して踏み込んでいくシーンは、けやき坂46時代にリリースされた「期待していない自分」のシーンとも重なる。実はこのシーンで使われている屋上は「期待していない自分」と同じであることが河田陽菜のブログで明らかとなっており、あの時とはグループの状況もメンバーも異なるが、明るい未来に向かって進んでいくメンバー一人ひとりの覚悟は同じものに感じた。どんよりとした雲が広がっていた「期待していない自分」とは違って、映像に青空が映し出されているのも、日向坂46の新時代を感じさせる演出だった。

昨年の『第74回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)への出場を逃すなど、悔しい場面もあったが、本作のMVを見る限り、彼女たちはまっすぐ前を向いてすでに新たな可能性を見出しているようにも思えた。日向坂46の未来は明るい。

(文=川崎龍也)

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