遠いバブル時代

 海外旅行に行く。観光地のホテルで何日か過ごす。終日、遊園地で遊ぶ。どれも企業から就職活動中の学生への“プレゼント”だった。ぜいたくを極めたバブル時代のエピソードは数知れない▲他社に奪われないように、入社が確定する「内定式の日」まで学生を囲い込む。プレゼントはいわば「拘束」で、企業が欲しい人材は上客に等しかったろう▲当時は入社式でも派手な演出が目立ったが、昨今は先輩が励ましの言葉を贈ったりと、心尽くしの歓迎が多いと聞く。昨日の本紙を開けば、新社会人の表情はどなたも凜(りん)として頼もしい▲同じ売り手市場でも、好景気に浮かれた昔と違い、今は人手不足を理由とする。企業側から贈られる海外旅行もホテル宿泊も、若い人にはおとぎ話だろう▲終身雇用制が揺らぎ、就職して3年以内に大学卒の3人に1人ほどが離職するというこの時代、企業も変わらざるを得ない。初任給アップ、残業の見直し、研修の充実…。働きがいと働きやすさをどう培うか、土を耕すような営みが続く▲バブル時代のサラリーマン川柳にある。〈頑張れよ 無理をするなよ 休むなよ〉。激励を装って、休日返上の「がむしゃら」を求めている。入社前の“上客扱い”と入社後と、天と地ほどの開きがあった時代は、もはや遠くなりにけり。(徹)

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