【記者解説!目撃アノ現場】改正障害者差別解消法 当事者の経験や改正のポイントは

新年度を迎え、4月から私たちの暮らしを取り巻く様々なものやことが新しくなりました。 今回は、4月1日から改正法が施行された「改正障害者差別解消法」について解説します。

障害者差別解消法は、その名の通り、障害のある人が生活をしていく中で、行政や企業、店などから不当な差別を受けたり、サービスに制限がかけられたりすることを防ぎ、「共生社会」の実現を目指すものです。2013年に制定され、2016年に施行されました。

内閣府がおととし11月に18歳以上の1765人を対象に行ったアンケート調査では、知っていると答えは人は24%、知らないと答えた人は74.6%と、まだまだ認知が広がっていないのが現状です。

柱となるのはふたつの項目で、「不当な差別的取り扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」です。 不当な差別的取り扱いについては、行政機関や民間事業者ともに禁止していて、 合理的配慮の提供については、行政機関は義務、一方で民間事業に対しては努力義務という位置づけでした。

不当な差別とは、「障害のある人が正当な理由なくサービスの提供を断られたり入店を拒否されたりすること」。 一方、合理的配慮の提供とは、「障害のある人が社会の中にある障壁を取り除くため何らかの助けを必要としている旨伝えられた際に、負担が重すぎない範囲で対応すること」となります。

それぞれ一例をあげますと、 車いすに乗った方が飲食店を訪れたとします。 その際、「介助者がいないのであれば入店しないでほしい」として利用を断ること、これは不当な差別にあたります。

一方、合理的配慮の提供とは、その方が車いすのままの入店を希望した際、備え付けのいすを移動させてスペースを作ることなどがあげられます。ここで、「前例がないので特別扱いはできません」と言って断る、といったような対応は合理的配慮の提供がなされていないことになります。

そして、1日から施行された改正法では、合理的配慮の提供について、民間事業者がこれまで努力義務だったものが、義務付けされることになりました。

では、実際に、障害のある方が社会の中で経験した不当な差別や合理的配慮が提供されなかったケースがどのようなものか、話を聞いてきました。

神戸市兵庫区にある「自立生活センターリングリング」。 障害のある人が地域の中で自立して暮らしていくサポートをするため、相談に応じたり、情報提供を行ったりしています。 スタッフの多くも障害がある人たち。 今回、改正法の施行にあたって、それぞれが直面した社会の中の「壁」について伺いました。

寺田さちこさんは、神経の疾患によって筋力がないため、電動車いすに乗り、24時間、介助者とともに暮らしています。

(脊髄性筋萎縮症 寺田さん)
「ある洋食屋さんで、介助者の分も(注文が)必要なので頼んでほしいということを言われたんですね。
私が頼むのでいいんじゃないかと話をしたんですね、そうしたら『頼んでもらわないと困ります』と。もういわれずに帰ってきた。」

また、車いす生活の浜野健二さん、 聴覚障害がある種池麻祐子さんも、 暮らしの中で生きづらさを感じることが何度もあったと言います。

(交通事故で首から下がまひ 浜野さん)
「『階段があるから上がれないので』と言うと、『店員も少ないのですみません』とか、土足厳禁、『ここは車いすの方は通れません』とか。
『会社のルールとかやり方があるのですみません』と言われてしまったら、それ以上何も言えなくなるので。それはすごく残念というか、悲しい気分になりますね」

(聴覚障害がある 種池さん)
「『私は聞こえません』というだけで『聞こえない?ごめんなさい』と避けられることが多い。
障害者がある、じゃあ最初から断るのではなくて、『どんな必要な手助けをしたらいいですか?』『私たちは何をしたらいいですか?』という社会になってほしい。
障害者、健常者の壁があるのでなく、困っていることをちゃんと聞いて、壁を取り払う社会になって欲しい」

障害は目で見てわかるものだけではありません。うつや不安障害などを抱える船橋裕晶さんは、精神障害がある人への理解を求めています。

(うつや不安障害などを抱える 船橋さん)
「人込みとか電車に乗るのがしんどい時期があったんです。ガイドヘルパーという移動支援を付けていたんですけど、身体(障害者)の人の場合は、電話料金が介助者分も割引があって介助者と2人分で1人(の料金)なんです。だけど、精神(障害者)の場合は適用されていなくて、2人分払わないといけないんですね。
法律だけでなく、みんなの気持ち、多様性の時代なので、いろんな人がいるんだっていうことを考えてほしい」

できるだけニーズにこたえるべきではあるのですが、すべての要望に応える必要があるのかというと、必ずしもそうではありません。合理的配慮の提供は「事業者の業務の負担が重すぎないもの」に限定されます。

例えば、飲食店で食事の介助を依頼されたとしても、断ることは法律に違反しないとされます。 ただ、漠然とした理由で対応しないことは避けるべきだとしています。 そのために必要なのが、「建設的な対話」とされています。

要望に100%応えることはできなくても、何か折衷案はないか、当事者と事業者同士しっかりと話し合うことが求められます。

違反するとただちに罰則があるわけではありませんが、対話もせず、適切な対応をしなかった場合、当事者が行政などを通じて事業者に改善を求めることができます。

ここでの聞き取りなどで、正しく報告しなかったり、うその報告をしたりした場合、罰金になることもあります。

この法律の制定にも尽力した当事者の方に話を聞きました。

障害者の声を集め、均等な機会と権利の獲得を目指して活動する当事者団体「DPI日本会議」副議長の尾上浩二さん。

脳性まひにより、子どもの頃から車いすで生活してきた尾上さんは、自身が受けてきた経験から、障害者差別解消法の制定にも携わりました。

(DPI日本会議副議長 尾上さん)
「中学校から家の近くの普通学校に行くことになったんですけど、入学する時に『階段の手すりなど設備を求めません』『先生の手は借りません』『周りの生徒の手は借りません』。そうしたものにサインをしてなんとか入学が認められる、合理的配慮を求めないことが条件だったわけです。
修学旅行の時は連れて行ってもらえず、独り取り残されて教室で自習をさせられた。今思い出してもひりひりする思い出です。
これからの子どもたちを、私たちの世代の障害者が味わったような経験をさせたくないのが一番大きな動機」

尾上さんは、今回の改正が障害者だけでなく、誰もが暮らしやすい社会の実現につながると期待を寄せています。

(尾上さん)
「まずは、いろんな事業者さんに、障害者差別解消法あるいは合理的配慮を広く知っていただきたい。
まだまだ知られていないのが現状だと思うので、改正障害者差別解消法が始まることで、自分たちも、これから合理的配慮が今まで努力義務だったけど義務になると。ちゃんと障害のあるお客さんが来たときに、向き合って、建設的対話でコミュニケーションを取って、やれることを一緒に見出していっていただければと思う。
そのことによって社会全体が誰にとっても住みやすい社会になっていってほしいと思う。」

「合理的配慮」、まだまだどのようなものか事業者も分からないことが多いかと思います。自立生活センター「リングリング」は、尾上さんを講師に招いた講演会を開きます。 5月11日、場所は神戸市中央区のあすてっぷ神戸で入場は無料だということです。

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