傑作アニメ『オッドタクシー』の裏側を描く漫画 『RoOT』は藪の中の真実を暴くか

いまだ明かされていない『オッドタクシー』の真実が明らかになる?

年数百の漫画を読む筆者が、時事に沿った漫画を新作・旧作問わず取り上げる本連載「漫画百景」。

第二十二景目は『RoOT/ルートオブオッドタクシー』。2021年に放送され話題になった傑作TVアニメ『オッドタクシー』の続編です。

4月2日深夜には、関連作のTVドラマ『RoOT / ルート』も放送開始されました。

4月5日(金)にはアニメの放送から3年を迎えるということで、今読むべき漫画として紹介します。

ドラマも注目の『RoOT/ルートオブオッドタクシー』

『RoOT/ルートオブオッドタクシー』(以下『RoOT』)は、アニメでも脚本をつとめた此元和津也さんとP.I.C.S.が原作。作画を、コミカライズ版『オッドタクシー』から引き続き肋家竹一さんがつとめる漫画です。

アニメ及びコミカライズ版『オッドタクシー』で描かれた、タクシー運転手・小戸川宏を中心にしたミステリー群像劇を、別の視点から覗いていく物語になっており、前作ではモブだった玲奈佐藤の探偵コンビが新たな主人公に据えられています。

さらに、この2人の活躍を軸にオリジナルストーリーが描かれるTVドラマ『RoOT / ルート』では、ドラマ『不適切にもほどがある』はじめ数々の話題作に出演し、劇場版アニメ『ルックバック』の主演声優にも決定した河合優実さんが玲奈役。

2025年に『君の忘れ方』で映画単独初主演をつとめる坂東龍汰さんが佐藤役を担当しています。

なお、以下から本作のあらすじを紹介するのですが、前作『オッドタクシー』の諸々に関わるネタバレを含んでいるのでご注意を。

ちょうど4月3日までコミカライズ版『オッドタクシー』は全話、『RoOT』は1巻分が、小学館Web漫画サイト・ビッコミで完全無料となっているので、未読の方はそちらをチェックしてみてください(外部リンク)。

『オッドタクシー』の相関図がより複雑に

『RoOT』は、前作『オッドタクシー』で描かれた練馬区女子高生行方不明事件を端に発する一連の騒動を、小戸川ではなく、探偵コンビの玲奈と佐藤の視点から覗いていく作品です。

物語は、女子高生行方不明事件の前日譚とも言える場面に、浮気調査の張り込みをしていた玲奈と佐藤が偶然居合わせる場面からはじまります。

その後2人は、小戸川らが常連の居酒屋を切り盛りするタエ子から、小戸川の素行調査を依頼され、彼が乗るタクシーに監視用のドライブレコーダーを設置。後々この車内で起こる物騒な出来事や様々な取引を目撃することになり、小戸川が巻き込まれていく事件に自ら首を突っ込んでいきます

さらに、玲奈は行方不明になる女子高生・ユキと中学生時代に、佐藤はとある出来事から小戸川を執拗に狙うようになる田中と小学生時代に同級生だったことが判明。

『オッドタクシー』ではモブかつ第三者であった2人が、本作では複雑な相関図に食い込んでくることになるのです。

ビジュアライズの違いで浮かび上がる生々しさ

上記の通り、練馬区女子高生行方不明事件からはじまる騒動を描く点は共通しているのですが、決定的に違うのが登場キャラクターのビジュアルです。『RoOT』では人間、『オッドタクシー』では擬人化した動物として描写しています。

『オッドタクシー』を最後までご覧になった方はなんとなくわかるでしょう。これは同作の主人公・小戸川が患う、高次脳機能障害による視覚失認が関係しています。

『オッドタクシー』の登場人物が全員擬人化した動物なのは、人間が動物に見えている小戸川の視界を表現しているからです。

一方の『RoOT』は、主人公が変わっていることもあり、皆人間の姿をしています。キャラクターのビジュアライズからも、『RoOT』が別視点の物語であることを強調しているわけです。

そしてこの影響で、『オッドタクシー』では多少マイルドになっていた田中の狂気や、パパ活の罠にハマっていく柿花の様子がより生々しく感じられます。前作とは異なる特徴の一つです。

小戸川が誰かと会話する時に発する「あの子 三毛猫じゃん」などといった表現(小戸川には人間がそう見えている)も、意図不明であることが強調されています。

こういう細かいところの差異も、ミステリーらしさを別角度で演出する『RoOT』の醍醐味です。

大門兄、ドブなど前作の主要キャラも続々登場

玲奈と佐藤が『オッドタクシー』の主要キャラクターと絡んでいくのも、『RoOT』の醍醐味の一つです。

2人は1話から悪徳警官の大門兄に職質を受け、前述したようにタエ子から小戸川の素行調査を依頼され、佐藤はドブに脅されています。

その他にも、キャバクラで働く今井、妄執の田中、アイドルグループ・ミステリーキッスの市村とユキ(になり代わっているさくら)などと接触し、『オッドタクシー』では描かれていなかった場面や取引に関与していたことがわかります。

『オッドタクシー』のこの場面に2人が絡んでいたのか! というサプライズや、まさかの場面に居合わせていたことがわかるため、もう一度前作を見直したくなること間違いなし。

『オッドタクシー』でモブとして登場していた時は何ら気にかけていなかった彼らの姿を見つけた時には、「ここから『RoOT』が始まっていたんだな……!」と、ちょっとした感動さえ覚えるはずです。

玲奈と佐藤の探偵コンビに期待したい、たった一つのこと

ちなみに、玲奈と佐藤が明確に本編に関わったのは『RoOT』が初めてではありません。2022年4月公開の劇場版アニメ『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』が最初です。

とはいっても同作ではほんの少しだけの登場で、彼らがなぜフィーチャーされたのかを知るためには情報が少なすぎたため、公開当時はあまり話題になっていませんでした。

また、同作では前作『オッドタクシー』の不穏すぎるラストのその後が描かれているのですが、どうにも不完全燃焼な内容であったため、真の意味で完結したとは言えず、座りの悪さが拭えませんでした。

『RoOT』に期待したいのは、前作のラストの詳細であり、『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』では不明瞭だった部分の補完です。

いまだ藪の中(イン・ザ・ウッズ)に隠れたままの真実を暴いてほしい

それが玲奈と佐藤の探偵コンビへの、たった一つの依頼です。TVドラマ版の展開と共に、しかと見守っていきたいと思います。

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