レシピなし“小さな発明” 86歳が「牛ずし弁当」を伝授 牛肉と酢飯の絶妙な味わい 自慢の味を後世に 人気レストランに継承

試作を重ね完成した牛ずし

特集は、味の継承です。かつて料亭を営んでいた男性が考案し、人気を博した「牛ずし」。それを長野市のビュッフェレストランが受け継ぐことになりました。味を後世に残したいという男性の思いを伝えたこの「特集」もきっかけの一つになっています。

■かつてデパートで人気の弁当

左:田幸袈佐昭さん 右:みーるマ~マ・加藤正料理長

牛肉をショウガと一緒に甘辛く煮込み、酢飯の上に乗せた「牛ずし」。かつて、県内外のデパートで販売された人気の弁当です。

考案したのは、かつて料亭を営んでいた田幸袈佐昭さん(86)。

牛ずしを考案・田幸袈佐昭さん:
「肉とショウガの千切りのしぐれ煮の味のバランス、これがすし飯に合うかどうか」

牛肉とショウガを煮込む(3月6日)

この日、田幸さんは長野市のビュッフェレストランで「牛ずし」の作り方を教えました。

レストランがメニューに加えることになったのです。

田幸袈佐昭さん:
「ありがたいです、ぜひ引き継いでいただければと、なにぶんよろしくお願いします」

味見をする田幸さん

味を後世に残したいと願ってきた田幸さん。

感慨ひとしおです。

■牛肉と酢飯の絶妙な味わい

田幸さんが営んでいた料亭

田幸さんは須坂市で料亭を営んできました。

売上げを伸ばそうと55年ほど前に考案したのが「牛ずし弁当」です。

55年ほど前に「牛すし」を考案

田幸袈佐昭さん:(2009年取材年):
「本業の料理店業がいろんな世の中の流れで壁にぶつかり将来性に不安を感じた。仕出し用の、大衆向けのお弁当をやれば、売り上げをカバーできるのではと」

実演販売する田幸さん(2009年)

牛肉と酢飯の絶妙な味わいで人気となり県内外のデパートでも販売されるようになりました。

しかし、2002年、高齢のため田幸さんは料亭を閉じ、牛ずし弁当の販売もやめました。

復活を望む声を受けて、特別に実演販売などもしましたが、田幸さんが望んでいたのは地元の店が味を受け継いでくれること。

■自慢の味を後世に

新聞広告

そこでー

「無料で『牛ずし弁当』の作り方を教えます」

新聞広告も出しました。

「おかあさんの味処 たんぽぽ」(2023年)

これがきっかけとなり、長野市篠ノ井のおやき店「おかあさんの味処 たんぽぽ」が作り方を教わり、現在も牛ずし弁当の予約販売を行っています。

■レシピのない“小さな発明”

「おかあさんの味処 たんぽぽ」で予約販売する牛ずし弁当

田幸袈佐昭さん:
「私にとっては小さな発明じゃないかな。私も高齢なものですからこの『牛ずし』を残したいですよ。長野市の名物になってもらえばという考え方だが、引き継いでくれる人がいなければ話にならない。そういう人を1人でも探して、教えて、長野にはこういうものがあるんだと知名度を広げてやっていければ」

■人気のレストランに継承

長野市穂保の「みーるマ~マ」(3月6日)

長野市穂保のビュッフェレストラン「みーるマ~マ」。

田幸さん教える:
「なるべくとろ火で長く煮れば煮るほど色ついてきますし、味に深みが出てくる。いい加減な料理なんですけど、これで長年やってきたもので」

田幸さんが加藤さんに牛ずしの作り方を教える様子

加藤正料理長に作り方を教える田幸さん。

「みーるマ~マ」も「牛ずし」のメニュー化に乗り出してくれたのです。

ナガレイ・小山昌彦さん

田幸さんとレストランを結びつけたのが業務用食材の卸売会社で働く小山昌彦さんです。

須坂市出身で子どもの頃、「牛ずし」を食べたことがありました。

ナガレイ・小山昌彦さん:
「山形の駅弁で『牛肉ど真ん中』というのをテレビで取り上げてまして、昔、子どもの頃に甘辛く味付けた牛肉が乗ったお寿司を食べた記憶がポンとよみがえりまして、妻にそのことを話したら、私の妻は食べたことがないと。もしかしたら須坂だけなのかと思いながらネットで検索をしてたら、長野放送さんの動画に行きついて、田幸さんが無償で教えてくださるということで」

2023年放送した「特集」の動画を見た小山さんが取引のある「みーるマ~マ」にメニュー化を提案しました。

みーるマ~マ・松本雅弘店長

みーるマ~マ・松本雅弘店長:
「味の伝承というのもありますし、新しいみーるマ~マの名物の一つになればいいかなと思って、今回お受けしました」

■懐かしい味に

味見をする田幸さん

「牛ずし」にレシピはありません。

まず目と舌で覚える必要があります。

みーるマ~マ・加藤正料理長:
「一度に調味料を決まった分量入れるのではなく、ちょっとずつ足していくところが、長年の味覚がきちんとしているからこその仕事なんだと感じる」

試作の牛ずしが完成

2時間ほどで「牛ずし」が完成。

早速、試食しました。

試作の牛ずしを試食

ナガレイ・小山昌彦さん:
「子どもの頃に食べた味です。ショウガが効いていて懐かしい味です」

田幸袈佐昭さん:
「まあ、うまくいった方じゃないかな。目方がないんですよ、100グラムだとか砂糖がどのくらいとか、これ自分の味だけで作るもんですから」

試作を重ね完成した牛ずし(3月18日)

12日後ー

味付けを加減しながら試作を重ねた加藤料理長。

いよいよ田幸さんの「最終チェック」を受けることに。

みーるマ~マ・加藤正料理長:
「お待たせいたしました。『牛ずし』完成いたしました、どうぞ。ご試食をお願いいたします」

田幸さんの「最終チェック」

田幸袈佐昭さん:
「味かなりいいですね。牛肉の味はもういいんじゃないかなと思いますけど、ショウガの千切りがもうちょっと多い方がいいかなって気もする。その日その日によって自分の舌で作るもんだから、慣れていっていただければ『牛ずし』の味がなってくると思う」

田幸さん(左)の最終チェックを終えた加藤さん(右)

ショウガの千切りを増やすなど改善点はありましたが、見事「合格」です。

田幸袈佐昭さん:
「板長さん、またよろしくやっていただいて」

みーるマ~マ・加藤正料理長:
「お店で売らせていただきますので」

みーるマ~マ・加藤正料理長:
「一応、合格という言葉をいただきましたので、ほっとしております。長年、心を込めて作ってくださった『牛ずし』ですので、心を引き継いでお客さまに喜んでいただくために頑張っていきたい」

■ビュッフェの特別メニューに

試作を重ね完成した牛ずし

自慢の味を後世にー。

田幸さんの「牛ずし」は4月3日から「みーるマ~マ」で、ビュッフェの特別メニューとして提供されます。

田幸さん:
「(『牛ずし』は)50年、半世紀の歴史を持ってますけど、地元でうまいって言ってくれる人が多けりゃ、一番こっちはうれしいことなんだから、あと人生もわずかですけど、残ってくれればそんなうれしいことはない」

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