米女子ツアーで日本勢初の“賞金女王”になった岡本綾子 73歳を迎える「10年しても若い子とバカ言って笑っていたい」

73歳の誕生日を迎えた岡本綾子

「あと10年しても今と同じようにしていたい。若い子とバカ言って笑っていたい」

73歳の誕生日を迎えた4月2日、岡本綾子はそう言って笑った。前日行われた「美浜インビテーショナルレジェンズ岡本綾子カップ2024」のプロアマ会場で誕生日を迎え、不動裕理が連覇を飾った大会の会長として、前日に続いて出場者たちのスタートを見守った。
 
今年が2回目となる大会は、45歳以上の“女子シニア”であるレジェンズたちが集う18ホールストロークプレー。4月後半にコース近郊の美浜町立野間小学校で行うスナッグゴルフのイベントと「兄弟みたいな大会。地元から盛り上げることがテーマ」だと口にする。
 
大会会長として岡本は八面六臂の活躍を見せた。手作り感あふれる大会で、自らが動き回った。レジェンズの選手たちは、生涯スポーツのゴルフの象徴でもある。これが子どもたちとのスナッグゴルフへと続いていくことで、さらに地域とのつながりは深くなる。岡本が監修したコースの森田勉司社長の地元愛とともに、これが浸透していく。
 
本戦のスタート前には岡本が始球式を行った。「すごく長い間しまい込んでいた自分のクラブをバッグから出したのが今年の2月。でもきょうは藤井(かすみ)の3ウッドを借りた」と始球式用のボールでのショットだったが、柔らかいスイングは1987に外国人として初めて米ツアー賞金女王になった往年のイメージのまま。
 
久しぶりに岡本がクラブを振る姿に、出場選手の多くがスマートフォンを構え、動画やスチール撮影をする。他では見られることのない光景が繰り広げられた。大先輩である岡本と笑顔であいさつを交わして記念撮影してスタートしていく選手たち。表彰式の司会は大会会長自身だ。「これは岡本から」と照れくさそうに言ってプレゼンターを務めるシーンもあった。
 
本戦終了後に行われたプロアマ前夜祭で選手紹介などのMCを担当したのも岡本だ。誕生日と重なったこの日のプロアマでも、笑顔でティーイングエリアに立ち続けた。「みんな年をとると丸くなる。生意気盛りだったプロたちがいい顔になってきて、同業者としては安心。みんなにはずっとゴルフをして欲しいと思う」と言う岡本自身は、ケガや病気でツアー出場を断念せざるを得なかったが、もともと、長い間試合に出るという気持ちを強く持っていた。
 
「生きている以上、頭のなかは生涯現役プロゴルファー」という言葉は、プレーそのものだけでなくさまざまな形でゴルフを伝えていく姿勢の表れだ。小学生が対象のスナッグゴルフも、2回目の今年は体育の授業の一環として行う。「安い実の日に子供を集めるんじゃなくて」(岡本)と、より親しみやすい形をとることになっている。
 
今大会は、45歳以上のプロが出場するレジェンズツアーとは別の独立したイベントだが、そこにさまざまなヒントが隠されている。地域密着、競技は選手ファースト。だが、ゲストに対してのホスピタリティは自然に発揮され、すべてが終わったあとには、コースのスタッフたちすべてが参加する打ち上げも行われるという。
 
「1回目は中部地区のプロが中心。今回は主催者推薦と(レジェンズツアーの)QTからが半々の予定だった」(岡本)が、スケジュールなどの関係で結果的に主催者推薦の比率が多くなった。「(主催の)ゴルフ場が来年もやると言ってくれているので、選手の意見も聞きながらやっていきたい」。大会の雰囲気も、集まった人々の笑顔も、岡本綾子がレジェンドだからというだけが理由のものではないはずだ。(取材/文・小川淳子)

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