幼少期なしで始まった「虎に翼」 朝ドラに盛り込む意義は?歴代作品から読み解いた

俳優の伊藤沙莉さん(29)が主演する2024年度前期のNHK連続テレビ小説「虎に翼」の放送が4月1日に始まった。

「虎に翼」は、日本初の女性弁護士を描く物語。第1回の冒頭、伊藤さんは新聞に掲載された日本国憲法の条文に目を通す主人公・猪爪寅子として登場。作品の初っ端からの登場となったが、これに対し、視聴者から「今回の朝ドラは、このまま幼少期の主人公とかのパートはないのか?」といった驚きの声がSNSに上がった。

「今回の朝ドラ、幼少期編から始まらないのがよいわぁ」

朝ドラの王道展開とも言えるのが、放送序盤での幼少期の描写。その後の人格形成の伏線を張るといった要素を盛り込むべく、幼馴染と戯れるシーンなどが盛り込まれることもある。「虎に翼」では第3回までに主人公の幼少期が描かれることはなかった。また、ドラマの公式サイトの「登場人物・相関図」のページを見ても、主人公の子ども時代を演じる子役の紹介はない。

今作は、幼少期を描かない選択をした可能性もありそうだ。そうであれば、そもそも、朝ドラで幼少期を描くことにはどんな意味があるのだろうか。また、幼少期が描かれない作品には、描かれないことにどのような意味があるのだろうか。「ネットと朝ドラ」(blueprint)の著書で知られるライターの木俣冬氏に読み解いてもらった。

まず、近年の朝ドラで「幼少期のシーンがなかった作品」には、どんなものがあるのか。木俣氏によると、「まんぷく」(18年度後期)、「ひよっこ」(17年度前期)、「マッサン」(14年度後期)といった作品がそれにあたり、「『おかえりモネ』(21年度前期)は途中で幼少期が出てきました」と指摘。6月に入ると幼少期が描かれる変則的な展開だった。

SNSには「今回の朝ドラ、幼少期編から始まらないのがよいわぁ」「朝ドラでだらだらと幼少期が長いのあまり好きじゃないのでこれは入り込みやすいかも」といった声も見られる。これに対して木俣氏は「上記の作品群を見ると、良作ではあります」としつつも、「幼少期がある作品のほうが圧倒的に多いし、子役が良かったと言われることもあります」と、「幼少期がないと良作の傾向がある」というわけでもないようだ。

「子ども時代から描いていたら、尺が足りなくなってしまうこともありますから」

では、「朝ドラで幼少期が得かがれることの意味・描かれないことの意味」は何なのか。木俣氏いわく、幼少期のあるなしは、主人公にとって幼少期や原風景がその後の人生に重要になるかどうかで変わってくる。

「代表的なのは、『おしん』(1983年度)で、貧しい家に生まれ奉公に出されたことが主人公の原点で、そこからどう脱していくかが描かれました。『おちょやん』(2020年度後期)などは『おしん』方式です。一方、『まんぷく』の場合、福子は萬平との出会いが重要だったので、その前は不要です。『マッサン』も同じ。エリーと出会い結婚したことが、主人公の物語のはじまりです。半年という長いドラマとはいえ、子ども時代から描いていたら、尺が足りなくなってしまうこともありますから」

あるいは、主人公の成長譚を描くのか、ほかにテーマがあるのかでも変わってくるという。

「子どもの頃から主人公が発明好きとか天才的な才能を発揮していたということを見せたい場合は幼少期を描きます。『べっぴんさん』(16年度後期)や『エール』(20年度前期)などですね。『ひよっこ』は、主人公の半生や人生という大きな出来事でなく、わずか数年の物語を丹念に描きたいという考えに基づいていました。『モネ』は、震災にあって主人公の人生が変わったという話で、それをミステリーふうに、昔は明るかった主人公がいまは消極的になってしまった理由があとでわかるように物語が進行していくので、時系列で幼少期を描く選択はなかったのです」

(J-CASTニュース編集部 坂下朋永)

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