U-23日本代表は主力不在のウクライナに“受け身のサッカー”。攻撃の幅を広げなければ、世界では通用しない【小宮良之の日本サッカー兵法書】

今年3月、小倉。U-23日本代表はU-23ウクライナ代表を2-0で下している。

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そんな試合展開だっただろう。相手のパスの出所に対し、どんどんプレスをかける。失敗を誘って、カウンターを発動。自分たちのリズムにはまっていた。荒木遼太郎、田中聡、平河悠の3人は躍動し、クオリティの高さを見せたと言える。

もっとも、チームとしての可能性を感じさせたのはどちらだったのか?

ウクライナはバックラインから果敢に縦パスをつけ、日本の守備を動かしながら、その綻びを突くようにボールを前進させ、ゴールに迫ろうとしていた。その精度は問題があった。しかしプレーモデルを終始一貫で徹底していた。ギャップで受け、際どいところまで迫った。リスクを懸けながら、能動的に崩していたのである。

日本は、あくまで受け身的な発想でのプレーコンセプトだった。相手の嫌なことをやり続ける。そこでアドバンテージを生み出していた。

言うまでもないが、それは一つの様式である。否定されるものではない。その点で、ウクライナを凌駕していたのも事実だろう。ただし、“後出し”が目に付いて、攻撃もそれ一辺倒だった。攻撃=守備になっているだけに効率は良かったし、それがこの試合では勝利につながったわけだが、自分たちで時間を作り、攻撃ができる幅を広げないと「世界」では通用しないだろう。

【動画】ウクライナで決めた佐藤恵允&田中聡のゴ―ル
一方で、ウクライナは無策にボールをつなげようとしていたわけではない。それは、彼らの矜持で、プレーモデルなのである。ボールが通るべきルートを見つけ、作り出し、使う。そこでの精度に難はあったが、そうしたプレーを積み上げていくことで、たどり着ける境地があるのだ。

忘れてはならないのは、ウクライナの主力はこの日、ほとんどピッチに立っていない。

欧州のパリ五輪予選にあたる2023年のU-21欧州選手権、ウクライナはベスト4に進んで出場権をつかみ取った。準決勝のスペイン戦の先発11人で、日本戦に先発出場したのはDFオレクシー・シチのみ。フル代表がEURO2024出場をかけたプレーオフを戦っていたこともあって、言わば“発掘型”の編成で、主力は招集できなかったのである。

例えばチャンピオンズリーグ(CL)にも出場していた国内最強のシャフタール・ドネツクのアルテム・ボンダレンコ、ヘオルヒー・スダコフ、ダニロ・シカンなどは日本戦に帯同していない。また、プレミアリーグ、チェルシーのアタッカーであるミハイロ・ムドリク、ポルトガルの名門ベンフィカの正GKであるアナトリー・トルビンなど海外組も呼べなかった。

精鋭が揃ったウクライナが、このサッカーを体現していたら...。パリ五輪に向け、日本はまだまだ成長が望まれる。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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