オトナが薫る。ボールマーカー2個持ちのすすめ/ギアを愉しむ。

たかがマーカー、されどマーカー

ルールに縛られず自由に選べる“道具”だからこそ こだわりたい(撮影/高梨祥明)

一周回って考えるギア選びの優先順位。今回はボールでもクラブでもない大切なラウンド用具、ボールマーカーについて取り上げたい。開発にあたり様々な規則や上限ルールでがんじがらめ状態になっている他のギアとは違い、マーカーに対するルール上の制限は非常に緩い。

ゴルフ規則では「小さなコインや同様のもの」という記述があるだけで、大きさや形についての明確な規定はない。ただし傾斜、グリーンスピード、その他の状態を測定・評価し、パッティングの参考になるように意図してデザインされたもの、光学的、電子的な部品を含むものは、マーカーとしては認められていない。風で動く恐れのある自然物での代用も不可である。

明確な決まりがないからこそ、マーカーの選択はゴルファー自身の性格や考え方を図らずも浮き彫りにしてしまう。

筆者はゴルフを始めたばかりの頃、グリーン上に落ちていた100円玉をラッキー! とばかり拾ってしまい、先輩に叱られた経験がある。「俺のマーカーを拾うんじゃねぇ!」と。この失態は、自分の中に100円玉をマーカーにしようという発想がなかったために起こったもの。当時はスタートハウスに置いてあるプラスティックの押し型ピンマーカーしか使ってはいけないと思い込んでいたからだ。

その後、明確な規定がないことを知り、イタリアのバイメタル貨(リラ)やアメリカのケネディ大統領のハーフ・ダラー硬貨を使ったり、時には上級者の真似をしてティペグを刺して済ませるようにもなった。明確な規定がない=何でもいい、とにかく見栄えのいいものを選んでいいと解釈していた。

本来の目的を果たすための2つの役割

しかし一周回って、最近はそれではいけないなと思うようになった。そもそもマーカーの用途は、自分のボールが同伴プレーヤーのストロークの妨げになるため、ピックアップするための用具。本来の目的を果たすためには、2つの役割を果たすべきではないかと思うようになった。

1)他のプレーヤーに自分のボール位置を知らせる。
2)他のプレーヤーには極力、自分のボールの位置を意識させない。

(1)はボールがカップから遠い場合に必要な配慮。ゴルファーなら皆、他人のラインを踏まないように注意しながらグリーン上を移動する。目立たないマーカーを使っていれば、「アレ? あの人のボールはどこだっけ?」と余計な気を使わせてしまう。

(2)はカップ付近にボールがあるときに必要な配慮。同伴プレーヤーのライン上付近に自分のボールがあれば、ラインにかからない場所にマークをズラす配慮が必要だし、ライン上でなくとも他者の視界に入っていることを念頭に置き、より小さく、目立たない配色の厚みがないものでマークするほうがベターである。

カップ付近では小さくて薄い押しピンタイプがおすすめ(撮影/高梨祥明)

マーカーにおいては大は小を兼ねないし、目立たぬことが美徳とも言いきれない。理想をいえば目立つものと目立たないものの両方が必携となる。ギア選びの優先順位についていろいろ書いている本コラムだが、マーク選びで優先させるべきは自分の好みより、他者への配慮。さりげなく大小のマーカーを使い分ける所作に“オトナ”が薫るのである。(高梨祥明)

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