抱っこの刺激でも水疱ができたり、ただれたりする「表皮水疱症」。常に赤い傷だらけの娘をどうやって育てたらいいかわからない・・・【医師監修】

成長に伴い傷が増え始めた美羽ちゃん。

鈴木仁美さん(35歳)には2人の子どもがいて、第2子の美羽ちゃん(2歳11カ月)は、難病の表皮水疱症です。表皮水疱症は、まれな皮膚疾患で、抱っこしたり、寝返りをうったりするだけでも皮膚や粘膜に水疱(水ぶくれ)やびらん(ただれ)ができてしまいます。現代の医療では根治治療法がありません。
美羽ちゃんの入院や退院後の生活について、仁美さんに聞きました。
全3回インタビューの2回目です。

難病・表皮水疱症で生まれた第2子の娘。妊婦健診では異常なし。「初めは、すぐに治る傷だと思っていたのに・・・」【医師監修】

生後2カ月で、NICUからGCUへ。ママもお世話ができるように

4カ月で、初めてママと一緒に24時間過ごしたとき。

わずかな刺激や摩擦などによって水疱(水ぶくれ)やびらん(ただれ)ができてしまう表皮水疱症。抱き上げたり、腕をつかんだりするだけでも刺激になり、水疱やびらんができてしまい、それを繰り返します。それによって指が癒着したり、つめがはがれたりもします。

美羽ちゃんの場合は、産まれたときから右足は、ひざから下が。左足は甲の部分は皮膚がむけて真っ赤でした。

「美羽が表皮水疱症と診断されたのは、生後1カ月のときです。産まれてすぐにNICU(新生児集中治療室)に入院し、生後2カ月でGCU(回復治療室)に移りました。
GCUに移って、初めて沐浴ができるようになりました。わずかな刺激でも皮膚を傷つけてしまうので、これまで美羽のお世話は看護師さんがしてくれていました。でも退院後の生活を見すえたら、私もできるようになっていなければなりません。GCUに移ってやっと、私もお世話に参加できるようになりました。

美羽のケアは容易ではありません。全身に保湿剤をつけて、皮膚が傷つかないようにガーゼや包帯で保護するのですが、保湿剤で滑ってしまい、うまくガーゼや包帯が巻けないんです。ガーゼや包帯を留めるテープにも保湿剤がつくと、くっつかなくなってしまい、何回も失敗しました。

また指が癒着しないように、ガーゼや包帯も指1本ずつ離して巻かなくてはいけません。生後2カ月の美羽の小さな指にガーゼや包帯を巻くのが大変で、コツをつかむまでかなり時間がかかりました」(仁美さん)

仁美さんが美羽ちゃんと初めて24時間一緒に過ごせたのは、生後4カ月のときです。

「表皮水疱症は、抱っこしたり、寝返りをうつなどわずかな刺激でも水疱ができたりします。水疱を見つけたらすぐに処置が必要です。そうしないと悪化してしまうんです。処置というのは水疱に小さな穴をあけて、中の滲出液を出し、その後皮膚を保護するというものです。穴をあけるには、注射針を使います。

4カ月で初めて美羽と一緒に過ごしたとき、注意して見ていたし、刺激を与えないようにお世話をしていたはずなのに、気がついたら背中に水疱ができていてほんとうに驚きました。私としては『知らないうちにできていた』という感覚なんです。こんなに気をつかっていてもできてしまうのか・・・。退院して、ちゃんと育てられるのかな?大丈夫かな?と不安でいっぱいになりました」(仁美さん)

美羽ちゃんには、4歳になるお兄ちゃんがいます。

「息子が初めて美羽に会えたのは、生後5カ月です。当時、息子はまだ2歳前だったので、美羽の状況がよくわかっていなかったようです」(仁美さん)

上の子は健康だけど、念のため家族で遺伝子検査を

退院して自宅で上の子と遊ぶ、生後6カ月の美羽ちゃん。

表皮水疱症は、遺伝性の皮膚疾患です。美羽ちゃんは、生まれてすぐ足が真っ赤でした。発症年齢は男女とも生後間もなくが多いと言われています。

「遺伝性と知ったのですが、そのとき、私も夫も近親者にそのような症状の人はいなくて、心当たりはまったくありませんでした。上の子も、今のところ症状はありません。でも保因者の可能性はあるので、家族全員、遺伝子検査をしました。私と夫は血液検査で、息子は唾液による検査です。検査をして2年以上経つのですが、まだ結果は出ていません。
医師からは『検査にはかなり時間がかかるけど、美羽ちゃんに行う治療の内容は変わるものではないし、影響はないから、結果はあせらずにもう少し待ってください』と言われています」(仁美さん)

表皮水疱症は、単純型、接合部型、栄養障害型の3つの型に分類されます。最も多いのは、症状の比較的軽い単純型です。美羽ちゃんの場合は、全身の症状が顕著な栄養障害型と診断されています。また栄養障害型には優性と劣性があり、美羽ちゃんは、劣性の可能性が高いと言われました。劣性は、さまざまな合併症を伴って重症化しやすいのが特徴です。

「医師からは、優性は加齢とともに症状が改善していくことが多いのですが、劣性は大人になっても症状の改善は見込めないと言われました。また、重症度には個人差があるとも言われました。

目の前が真っ暗になったのは、表皮水疱症には根治する治療法がないということを聞いたときです。どうしたらいいのか、わからないことばかりで、不安でつらい日々でした。

でも美羽はすくすく成長して、生後3カ月には首がすわり、5カ月で寝返りができるようになりました。

生後2カ月になって初めて出産前に用意しておいた洋服を着せてもいいと許可されたときは、涙が出るぐらいうれしかったです。美羽の成長が心の支えです」(仁美さん)

イヤイヤ期真っ盛りに。毎日のおふろは訪問看護師さんとママの2人がかりで

2歳になったころ。公園の滑り台で遊びたがり、摩擦が心配だけどおそるおそる支えながら遊ばせたら、うれしそうにバンザイ!

美羽ちゃんは栄養状態が安定し、体重も増えてきたので、生後6カ月で退院します。
退院時の体重は6735gです。退院後は、訪問看護師さんのサポートを受けながら仁美さんが中心に美羽ちゃんのお世話をしています。

「表皮水疱症は、今のところ根本的な治療法がありません。そのため対症療法とホームケアが中心です。
美羽は、わずかな刺激でも水疱ができたりしてしまうので、洋服はワンサイズ大きめで、肌に優しい素材のものを着せています。服を脱ぐことすら刺激になるので、えりぐりはなるべく広いものを選んでいます。

また、皮膚から滲出液とともにタンパク質が喪失すると、低栄養になってしまうので、美羽は栄養剤を哺乳びんに入れて飲ませています。栄養剤はむし歯になるリスクが高いので、歯磨きは欠かせません。でも口の中も水疱ができたり、傷つきやすいので、市販の乳児用の歯ブラシなどは使えません。そのため綿棒にフッ素配合の歯磨き剤をつけて歯磨きをしていました。2歳ごろからは市販の幼児用歯ブラシを使えるようになりました。今のところむし歯はゼロです」(仁美さん)

仁美さんが、毎日のお世話で最も大変なのはおふろです。もうすぐ3歳の美羽ちゃんは、イヤイヤ期真っ盛りです。

「とにかくおふろが苦手で。美羽は湯船を怖がって泣いて入りません。でも、全身をチェックして、水疱があったらすぐ処置をするためにもおふろは何よりも大切なお世話です。
美羽の場合、お湯に入って体を温めることが目的ではありません。体の様子を確認して、清潔にすることが大切なので、ベビー用のスポンジマットに寝かせたり、座らせて、泡洗いで優しく体を洗っています。

シャワーもミストタイプなら使っても大丈夫なようですが、美羽はシャワーも怖くて泣くので、優しくお湯をかけて洗い流しています。

おふろに誘うとイヤイヤするし、湯上りの保湿ケアには時間がかかります。全身をくまなく見て水疱があればすぐに処置をしなくてはいけません。私1人では難しいので、訪問看護師さんが来てくれる午前中におふろに入れるようにしています。

以前は、夫の帰りを待っていて、夜、夫とおふろに入れていたことがあるのですが、毎日、同じ時間でないといつから水疱ができていたのかわからなくて。
そのため訪問看護師さんと午前中に、おふろに入れるようにしました。決まった時間におふろに入れることで『いつから水疱ができていたんだろう?』という不安も減りました」(仁美さん)

仁美さんの自宅には、水疱から滲出液を抜くための注射針が何本もあります。

「以前は23ゲージの細い注射針を使っていたのですが、美羽の体の成長に合わせて、注射針が太くなりました。今では18ゲージという太めの針を使っています。太い針でないと、滲出液がうまく出すことができません。午前中のおふろのお世話で見つける水疱は毎日複数あります。4~6個ぐらいの水疱を日々ケアしています」(仁美さん)

またかゆみを抑えるために抗ヒスタミン薬を服用することも欠かせません。

「抗ヒスタミン薬を朝、夕の2回服用していても、かゆみはひどいようです。かゆいからだと思うのですが、夜泣きもひどいです。夜泣きをしたときは、夫が面倒を見てくれます。
入院中は、美羽のことを育てていけるかな?と不安でいっぱいでした。先が見えなくて、夫も私もどうしたらいいのか戸惑っていました。でも日々、成長する美羽と過ごすうちに、少しずつ自信がついてきました。小さな美羽に勇気をもらっている感じです」(仁美さん)

【玉井先生から】表皮水疱症は、家庭でのていねいな処置が症状の悪化を防ぐ

表皮水疱症の水疱(水ぶくれ)は、でき始めは小さいのですが、そのままにすると衣服とすれて大きくなって破れてしまい、治りにくい潰瘍(かいよう)ができてしまいます。一方で、水疱が小さいうちに清潔な針で穴を開けて、ていねいに水を抜いてあげると、はがれた皮膚が破れずにくっついてくれることがあるので、保護者は朝に夕に全身の皮膚を調べて水疱を探し、見つけるとていねいに処置をしています。場合によっては1日に数時間も皮膚の処置に時間がかかることもありますが、ていねいな処置がその後の症状の悪化を防いでくれるので、大変なことを承知で保護者の方にお願いしています。

お話・写真提供/鈴木仁美さん 監修/玉井克人先生 協力/NPO法人表皮水疱症友の会 DebRA Japan 取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部

表皮水疱症は、現在のところ根本的な治療法はありません。しかし新薬開発や皮膚の再生医療の研究は進んでいます。仁美さんは「まだ時間がかかるかもしれないけれど、医療技術の進歩に望みを託したい」と言います。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

NPO法人表皮水疱症友の会DebRA Japan

監修/玉井克人先生(たまいかつと)

PROFILE
大阪大学大学院医学系研究科招聘教授。1986年弘前大学医学部卒。90年同大学大学院医学研究科博士課程修了。弘前大学医学部皮膚科助手などを経て、91年米国ジェファーソン医科大学皮膚科留学。2003年大阪大学大学院医学系研究科遺伝子治療学助教授、04年同准教授。10年同研究科再生誘導医学寄附講座寄附講座教授。23年10月より現職。専門は再生医学、遺伝子治療学、皮膚科学。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年2月の情報であり、現在と異なる場合があります。

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