ウエラン井口、とろサーモン久保田の新番組『耳の穴』に見た「バラバラ大作戦」の覚悟

テレビ朝日系深夜の「バラバラ大作戦」枠で始まった新番組『耳の穴かっぽじって聞け!』第1回が2日深夜に放送された。

この番組は、ウエストランド・井口浩之ととろサーモン・久保田かずのぶという2人の『M-1』王者によるトークバラエティ。この組み合わせでは昨年6月に『猛毒の宴』という配信なしのトークライブが行われており、昨年末から今年初めにかけてはYouTubeの人気企画「焚き火で語る。」でも顔を合わせている。

特に井口にとって「バラバラ大作戦」は、長年にわたって「なんで僕を呼ばないんだ(意訳)」と悪態をつき続けてきた枠だけに、満を持しての登場となった。

井口と久保田といえば「毒舌/悪口」で知られる芸人である。だが、先日の「焚き火で語る。」では2人とも実直で思慮深く、何よりお笑いへの熱さを抱いている一面が珍しく披露されており、この『耳の穴』への期待も高まっていた。

第1回では、2人が「芸人の解散」を語り尽くすのだという。和牛、プラス・マイナス、尼神インター、ANZEN漫才、つい先日には関西の有望株・ハイツ友の会も解散を発表しており、いかにもタイムリーな話題である。なるほど、お笑い界の時事ネタに2人が毒づいていく番組か。そういう心持ちで、TVerを再生した。録画ではなくTVerで見たのは、井口がYouTube「ぶちラジ」で口酸っぱく「TVerで見ろ」と言っていたからだ。

その内容は、時事ネタなどという甘っちょろいものではなかった。

ひとしきりオープニングトークが終わると、VTRで「ある芸人の本音」が明かされるという。登場したのは、昨年11月にコンビを解散した元ゾフィーの上田航平。ゾフィーは『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(ABEMA)で解散の経緯を詳細に明かしており、その際に相方のサイトウナオキの酒癖と女癖の悪さがネットニュースで広く報じられている。

上田は、解散の理由を公にしたことが「本当に正解だったのかな?」と語る。サイトウの酒と女の問題ばかりに注目され、本来、解散にいたった経緯が正確に伝わっていないのでは、と頭を悩ませているのだという。そして今回、その“本音”が文章の形で改めて語られることになる。

「解散の理由を言うべきだったか、言わないべきだったか判断してもらいたい」

それが、スタジオの井口と久保田に課せられたテーマだった。

「久保田さんその……(収録)1回目ですよね」と苦笑いを浮かべる井口。久保田も「思ってるよりどんぶりの量が多いわ」と戸惑いを隠さない。

「バラバラ大作戦」がこの2人を呼ぶからには、これくらいのものをぶつけなきゃいけないだろう。それは、制作側の覚悟だったに違いない。要するに、肚が決まっているのだ。

上田による文章は男性アナウンサーによって朗読された。井口と久保田は、ヘッドホンでそれを聞いている。その間、5分30秒。ゾフィーが2度ファイナルを経験している『キングオブコント』(TBS系)のネタ時間より長く、笑いゼロの切実な告白がテレビに映し出される。

「どうしてくれるの……」と久保田が首を垂れる。「一回楽屋戻ってもいいですか」井口は精いっぱいの“笑える”コメントをひねり出す。

もう毒舌も悪口も出番はない。2人が上田の告白を、2人の“自分ごと”として話し始める。1人でも火力を出せる漫才師であること、『M-1』王者という結果を手にしていること、2人にしか言葉にできない思いが、次々にあふれ出てくる。そしてこの2人にいつだって付いて回る「人を傷つける笑い」というレッテルに対する解釈に帰結していく。

明らかにグルーブしている。すごい番組になる予感がする。少なくとも第1回は、掛値なしですごい番組だった。

第2回のテーマは「賞レースで戦う意味」だという。

「焚き火で語る。」で久保田は「力はみなぎってる、戦う場所がほしい」と言っていた。井口は『M-1』を制したその夜に、YouTubeに「賞レースなんて手段だろ」と言い放つ漫才を公開している。そんな2人が何を語るのか。番組側は、2人に何をぶつけてくるのか。期待したい。

(文=新越谷ノリヲ)

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