苦渋の決断「万策尽きた」 赤字額が限界、移動販売を終了 利用者からは買い物難民化を懸念する声 島根県隠岐の島町

営業を終えた移動販売の「らとこんた」=3月28日午前、島根県隠岐の島町内

 島根県隠岐の島町で買い物に行きづらい世帯に生鮮食品や生活雑貨を届ける移動販売車が3月末で事業を終えた。高齢者の生活を維持しようと採算を度外視して事業を継続してきた運営会社は「万策が尽きた」と、苦渋の決断をした。利用者からは買い物難民化を懸念する声が上がる。

 移動販売「らとこんた」は2017年5月から22年9月まで町内のNPO法人が、22年10月からは同町中町で保険業や自動車整備・販売を手掛ける前川商会が事業を展開してきた。町内には複数の大型スーパー、ドラッグストアがあるものの立地は旧西郷町に集中する。販売車は無店舗集落や店舗から遠い約150カ所の軒先や広場に大型車1台、軽自動車2台で週1、2回のペースで巡回した。

 冷蔵や冷凍を含めた食品、介護用品、野菜の種まで多彩な商品を提供し、3台で1日に延べ100人の利用があったという。前川商会の前川昌昭社長(72)によると、仕入れ先は独自に築いたルートで本土、町内から入荷し、5人のスタッフが携わった。人件費や経費がかさんで赤字が続き、近年は年度末になる度に撤退を検討してきたという。スタッフは配置転換した。

 町は23年度に運営費360万円と車両整備費などを助成したが、同社は24年度以降の事業継続は困難と判断した。前川社長は「この1年で車を減らすといった試行錯誤をしたが、赤字額が大きく、民間で運営するには限度がある」と説明した。

 町は約500人が利用していたと推計する。事業の継承先を探しているが名乗り出る事業者はなく、抜本的な対策が見いだせていない。

 3月末の最終営業日、利用者はスタッフにこれまでの労をねぎらい、今後への不安を口にした。独居の90代女性は「近くに家族や親戚がいないのでタクシーでスーパーに行くしかない。足が不自由で広い店内を歩くことができない」と嘆いた。

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