ゴルフ場マネジメントにおける暑熱対策の具体例(1)―コストをかけずに今すぐできること編―

まずは低コストの対策から

第58回ジャパンゴルフフェア2024(於:パシフィコ横浜)の第1日目(3月8日)に開催された「ゴルフ市場活性化セミナー(GMAC セミナー)」に登壇した。与えられた 時間が僅かで、しっかりと説明することが出来なかったた め、本号から数回、このセミナーで披露したアイデアのエ ッセンスを改めて紹介したい。

これまで、ゴルフ市場活性化やゴルフ人口増加策の議論において筆者は『ゴルフ場が変わらなければ何も変わらない』ことを繰り返し述べてきた。例えば「最終組スタート後に2-3ホールの体験ラウンドの導入」とか「時間のかかる初心者にはカップを大きくして難易度を下げスロープレーを避けるアイデア」など、ごく少数、実現したものもあるが、大半の提言は、市場の声を反映させたものであるにもかかわらず、現場で試みられるには至っていない。その背景の1つには、日本のゴルフ場の9割以上が会員制を建前としていることや、コスト面への懸念や課題から現状維持が選択されている。

しかしながら、ここ数年の突発的猛暑は生命に関わる非常事態であり、4時間以上の屋外プレーを要するゴルフ場の暑さ対策の徹底は必須である。特に、昨夏(2023年)は過去に前例の無い猛暑となり「地球沸騰化」と言われるまでに至ったが、この状況は今後も深刻化することは間違いないとされている。本稿では、まずは「コストをかけずに今すぐできること編」として、その一例を紹介したい。

1)夏用コースマッピングの作成

コース案内図やスコアカードに、WBGT 値が高くなる 「特に暑いホール」や、徒歩でのプレーは避けた方がよい 「カート利用推奨ホール」などを記載してはどうか。WBGT 値は地形や日当たり、風の影響、人工物による輻射熱、等々 によって、同じゴルフ場内でも数値が変わってくる。

図1.コースマップに「真夏の情報」を追加

要するに、同じゴルフ場内であっても、特に暑くなる場 所や、それほどでもない場所などバラつきが生じる。こう した情報を各ゴルフ場で計測・調査した上で『マッピング』 してはどうか。図1は某県営ゴルフ場のコースレイアウト 画像の上に、【WBGT 上昇ポイント】、【カート利用推奨ホール】、【クーリングエリア】などのアイコンを示した。あ くまでも例示(ダミー)なので、実際のゴルフ場の状況と は異なるし、単にアイコンを上書きしただけなので、デザイン的にも大いに課題があるが、いずれにしても、このように表示するだけでも「このホールは特に暑い」ということを情報として周知できる。同様に、スコアカードに枠を設けて、アイコンを表示するだけでもわかりやすいのではないか(図2)。

図2.スコアカードに「Heat warning」アイコンを表示## 2)チェックインカードによる来場者の状況把握

来場時に記入してもらうチェックインカードに「熱中症予防のためのチェック項目」として数行追加し、熱中症の要因となり得る情報(朝食、睡眠、飲酒などの項目)にチェックしてもらう欄を設けるのはどうか。

ゴルフ場側としては『リスクのある来場者の抽出や追跡』をすることができる。また、来場者に対しては『自らが熱中症に要注意であることに気付かせる効果』が期待できる。

図3.チェックインカードを増枠し「熱中症予防のためのチェック項目」を追加## 3)おにぎりや塩スムージーなど手軽に摂取できる食事の提供

チェックインカードへの記入を経て「自分は熱中症予備軍かもしれない」という気付きがあった場合、「しっかり食事を摂ろう」とか「塩分を補給しておこう」と言う思いをすぐに行動に移せるように、スタート前に手軽に摂取できる、おにぎりや熱中症に効く簡単な食事(例えば塩スムージーなど)が手に取れる環境を整えてはどうか。朝の数時間(スタート前)のみ、バーカウンター的にドリンクを提供したり、ワゴンやキッチンカーなどで、手軽に食べられるものを販売するなども効果的だろう。

暑くて食欲が出ないという理由だけでなく、スタート時間に遅れそうで食べられなかった、と言う例も従来から季節を問わずあったはずだ。

次号では、コースマッピングのアイコンに示した「クーリングエリア」設置提案について、その具体例を含めて紹介する。


この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年4月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。

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