ドバイワールドカップデーを独自総括! 日本馬はG1勝利ならずも、フォーエバーヤングの無傷V5に矢作調教師は男泣き。“夢舞台”に期待膨らむ

日本時間の3月30~31日にかけて、2024年のドバイ・ミーティング(メイダン競馬場)が開催され、日本でも「JRAプール」の方式で馬券が発売された。

ご存知の通り、日本調教馬(以下「日本馬」)は残念ながらG1レースの勝利はならず、悔しい思いをした。一方、終盤で後述するがアンダーカードのUAEダービー(G2、ダート1900m)では、今回のドバイで唯一となる日本馬の圧勝劇があり、こちらは先々に夢をつなぐ嬉しい勝利となった。

では、悔しさと嬉しさが同居した今年のドバイ・ミーティングを回顧してみる。

まずG1の4レースから見ていくと、一番際どい勝負をしたのはドバイターフ(芝1800m)だ。エース格のドウデュース(牡5歳/栗東・友道康夫厩舎)をはじめ、ダノンベルーガ(牡5歳/美浦・堀宣行厩舎)、ナミュール(牝5歳/栗東・高野友和厩舎)、マテンロウスカイ(せん5歳/栗東・松永幹夫厩舎)と、日本勢は精鋭4頭で臨んだ。
ドウデュースがやや出遅れるなか、まずマテンロウスカイがハイペースの逃げを打ち、ダノンベルーガが中団の後ろ目、ナミュールが後方から進んだ。

早いペースがたたってマテンロウスカイが馬群に飲み込まれて迎えた直線。先行勢が激しい争いを演じるなか、外から伸びてきたのがファクトゥールシュヴァル(せん5歳/仏・J.レニエ厩舎)と日本のナミュール。2頭が馬体を併せて100mにも渡る叩き合いを演じたが、ファクトゥールシュヴァルがナミュールを短アタマ差抑えて優勝。ダノンベルーガはさらに3/4馬身差の3着に、ドウデュースはインで馬群を捌きながら5着まで追い込む健闘を見せたが、逃げたマテンロウスカイは15着に終わった。

ハイペースを利して鋭い末脚を繰り出したナミュールは高野調教師、クリスチャン・デムーロ騎手ともに「よく頑張ってくれた」と愛馬を称賛。日本でマイルチャンピオンシップ(GⅠ)を制し、昨年末の香港マイル(G1、シャティン・芝1600m)でも3着に食い込んだ実力を如何なく発揮する好走を見せた。逆に、無念の出走取消で昨年のリベンジを期したドウデュースは前が壁になる格好で追いにくいレースとなったのが、大変悔やまれた。

なお、このレースで米国のキャットニップに騎乗していたクリストフ・ルメール騎手は落馬。鎖骨と肋骨の骨折に加え、肺に穴が開く重傷を負ったため、以後のレースをキャンセルした。よって、ドバイシーマクラシック(芝2410m)で騎乗予定だったスターズオンアース(牝5歳/美浦・高柳瑞樹厩舎)はランフランコ・デットーリ騎手に、ドバイワールドカップ(ダート2000m)のデルマソトガケ(牡4歳/栗東・音無秀孝厩舎)はオイシン・マーフィー騎手に、それぞれ乗り替わることになった。 ドバイシーマクラシックはリバティアイランド(牝4歳/栗東・中内田充正厩舎)、スターズオンアースの強力な牝馬2騎をはじめ、シャフリヤール(牡6歳/栗東・藤原英昭厩舎)、ジャスティンパレス(牡5歳/栗東・杉山晴紀厩舎)が出走した。

加えて、日本の大種牡馬ディープインパクトのラストクロップにして、昨年の英・愛ダービーを制している強豪オーギュストロダン(牡4歳/愛・A.オブライエン厩舎)の走りにも、大きな注目が集まった。

レースはシャフリヤールが2番手に付けると、その後ろをジャスティンパレスが追走。リバティアイランドとスターズオンアースは中団から進んだが、結果的に「前残り」の競馬となり、2番手からレベルスロマンス(せん6歳/UAE・C.アップルビー厩舎)が先頭に躍り出ると、シャフリヤールが追いすがる。

さらに、外からはリバティアイランドが鋭い末脚で追い込んできたが、先頭のレベルスロマンスが後続を振り切り、そのままゴール。シャフリヤールは2馬身差の2着、リバティアイランド、ジャスティンパレスが3、4着を占めた。

3番人気だったスターズオンアースは直線で外にもたれたこともあって8着にとどまり、注目のオーギュストロダンは見せ場なく最下位の12着という不可解な成績に終わった。

勝ちこそ逸したが、シャフリヤールは昨秋のブリーダーズカップ・ターフ(G1、サンタアニタ・芝2400m)で3着に入った実力を見せ、リバティアイランド、ジャスティンパレスも自らの力を出し切ったと言ってもいいだろう。

その一方で、一昨年の牝馬二冠スターズオンアースは本来のパフォーマンスを出し切れず、惨敗を喫した。手綱を取ったのがレジェンド・ジョッキーであるデットーリ騎手だったとはいえ、やはり直前でルメール騎手からの乗り替わりはプラスに働くことはなかったようで、「外へともたれて、道中は調整が必要でした」とコメントしていた。
ドバイゴールデンシャヒーン(ダート1200m)は、リメイク(牡5歳/栗東・新谷功一厩舎)、ドンフランキー(牡5歳/栗東・斉藤崇史厩舎)、ケイアイドリー(牡7歳/栗東・村山明厩舎)のJRA所属組に加え、地方競馬のエースであるイグナイター(牡6歳/兵庫・新子雅司厩舎)が出走した。

しかし、ここは地元のタズ(UAE・B.シーマー厩舎)の独壇場になった。2着のドンフランキーに6馬身半差を付ける圧勝劇を演じ、他馬の出る幕はなし。リメイクは4着、イグナイターは5着、ケイアイドリーは9着に終わり、ダートのスプリント戦における壁の高さを感じさせる結果に終わった。

メインのドバイワールドカップ(ダート2000m)には、連覇を狙うウシュバテソーロ(牡7歳/美浦・高木登厩舎)を筆頭にデルマソトガケ、ウィルソンテソーロ(牡5歳/美浦・小手川準厩舎)、ドゥラエレーデ(牡4歳/栗東・池添学厩舎)の強力4騎が出走。大きな期待がかけられたが、逃げて第3コーナーから後続を引き離したローレルリバー(牡6歳/UAE・B.シーマー厩舎)が直線は独走。後方から追い込んだウシュバテソーロに8馬身半差という圧倒的な大差を付けて完勝を遂げたのだ。

そのほかウィルソンテソーロは4着、ドゥラエレーデが5着、デルマソトガケが6着と日本馬もそれなりの着順は得たものの、最先着のウシュバテソーロを含めて、今回のローレルリバーの快走の前には影が薄かったと言わざるを得ない。 G1レースでの勝利こそなかったが、その前に行なわれたUAEダービーでは、デビューから無敗の4連勝で臨んだフォーエバーヤング(牡3歳/栗東・矢作芳人厩舎)が素晴らしいパフォーマンスを見せて勝利をものにした。

大外枠から出たフォーエバーヤングはスムーズに先行集団の後ろという好位をキープ。第3コーナーから仕掛けて2番手で直線へ向くと、先を行くアウトバーン(牡4歳/UAE・J.オラスコアガ厩舎)に並びかけると長い叩き合いを制して2馬身差で勝利。無傷の5連勝を達成した。

ゴール後、中継映像に矢作調教師が目頭を押さえるシーンが映し出された。それは、のちのコメントで意味が明らかになる。

「私事ですが、今朝、私の師匠でもある父が亡くなりました。彼のためにも、勝って良い報告ができて良かったです」

フォーエバーヤングの勝利は、実に見事な手向けの花となった。
「ウマ娘」で知られる(株)サイバーエージェントの代表取締役社長を務める藤田晋オーナーは、同馬のデビュー後すぐに矢作調教師から、「目標はケンタッキーダービー(G1、米チャーチルダウンズ・ダート2000m=5月4日)」と宣言されていた。この日のレース後も、同調教師からあらためて「ケンタッキーへ行きます」と、決断を示す力強い言葉を受けた。

陣営が照準を定めた、その大舞台が開催される米国では異次元の怪物が出現した。同日にフロリダダービー(G1、ガルフストリームパーク・ダート1800m)をノーステッキで2着に13馬身半差を付けてフィアースネス(Fierceness)が優勝したのだ。

強敵は多かろうが、これまでも苦心しながら未踏の高峰を制してきた矢作調教師。名伯楽の管理馬ということで、期待は高まるばかりだ。

文●三好達彦

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