【総検証】がんを見逃す「がん検査」…オズワルド畠中「PET検査」で腎臓がん発見は特殊例、「レントゲン」は肺がんには不向き

PET検査により腎臓がんを早期発見したオズワルドの畠中悠(写真・Pasya/アフロ)

漫画家の倉田真由美さんの夫で、映画プロデューサーの叶井俊太郎さん(享年56)が2024年2月、帰らぬ人となった。

2023年、叶井さんは膵臓がんを公表した後、発見までに誤診があったことを明かしていた。黄疸があったにもかかわらず「胃炎」と診断され、がんの発見が遅れたのだ。

叶井さんのケースが特殊だったわけではない。みなとクリニック(大阪市)院長の田中崇洋医師が解説する。

「前提として、がんの種類によっては進行が非常に速く、半年前の検査では何もなかったのに、がんが見つかるケースがあります。たとえば『スキルス胃がん』は進行が速く、必ずしも “見落とされていた” というわけではありません」

だが、検査をしていても、がんを見逃してしまうことがあるという。

「たとえば、咳が長期間出ていて、担当医師は肺炎を疑いレントゲンを撮ったが、何も写っていなかったために喘息と診断したケースで、じつは肺がんだったことがあります」(田中医師)

多くの医療機関で受診できる【レントゲン検査】だが、頼りきるのは危険だと田中医師は言う。

「レントゲンでは、肺がんのある部位が心臓や肋骨、横隔膜などに隠れて死角になってしまうことがあります。何も見つからなかったとしても自覚症状が続く場合に、患者さんが『様子を見よう』と検査の受診を控えてしまうと、その間にがんが進行してしまう可能性もあります」(同前)

がんがある場合、血液中に「腫瘍マーカー」というタンパク質が現われることがある。採血してこの物質を調べるのが、【腫瘍マーカー検査】だ。

●喫煙者の腫瘍マーカーは、基準値の2倍の数値が出ることも

採血のみですむため、自費でも数千円で実施できる。そのため、手軽にできる検査として人気だ。だが、田中医師は腫瘍マーカー検査についてこう注意を呼びかける。

「大腸がんや胃がんが進行すると、CEA(がん胎児性抗原)と呼ばれる腫瘍マーカーの値が上がることが多いのですが、これは一概に信頼できるものではありません。

たとえば喫煙者の場合、がんがないのに基準値の2倍くらいの数値が出ることがあります。また、血液検査でCEAが高くてもがんが見つからない患者さんもいれば、逆にCEAが上がらないのに、がんが見つかる患者さんもいます」

そのため、腫瘍マーカー検査は本来、がんを見つけるためではなく、治療中に参考とするためのものだという。

「すでにがんがある患者さんの場合、治療の後に腫瘍マーカーが下がっていれば効果があったといえますし、その後にジワジワと上昇していれば、がんが進行している可能性を疑うことができます。しかし、腫瘍マーカー検査のみで早期がんの診断をおこなうことはありません」(同前)

では、田中医師自身は、がんの早期発見のためにどのような検査を受けているのか。

「40歳以上になると、大腸がんのリスクが高くなります。健康診断の際には『便潜血』を調べることががんの早期発見につながると思います。私も毎年、検査を受けるようにしています。100%の精度とはいえませんが、消化器系にがんがあると出血することが多く、便の検査で知ることができます」

一方、えびな脳神経クリニック(神奈川県海老名市)理事長の尾﨑聡医師は、最近のある “流行” に首をかしげる。

「最近、【PET(ペット)検査】を受けたいという人が増えています。全身を一度に調べられ、予想外のがんが見つかることもあるのはたしかですが、検査の特色が知られていないように思います」

PET検査とは、微量の放射性の薬剤を投与し、体内に分布した薬剤が放出する放射線を、特殊なカメラで画像化する検査だ。

2月にお笑いコンビ・オズワルドの畠中悠(36)が、腎臓がんの手術を受けることを公表した。

昨年11月に、空気階段の鈴木もぐら(36)とPET検査を受けて腎臓に腫瘍が見つかり、その後の検査で初期の腎臓がんと診断されたのだ。

このことが、PET検査希望者が殺到している背景にあるのではないかと、尾﨑医師は推測する。

だが、PET検査は費用が高額で、設備を備えた施設も多くはない。

「すでに胃がんや大腸がんなどと診断されているケースで、手術前に遠隔転移がないかを調べるためにおこなうというのが、PET検査の主流の使い方です。すでにがんと診断されている方ではなく、健康診断としてPET検査を受ける場合は、保険が適用されず、10万円程度の負担となってしまいます」(同前)

さらに、畠中が早期発見できたケースは、一般的とはいえないようだ。

「PET検査には、少し厄介な点があるのです。それは、糖分が集まるところに薬剤が集積しやすいという特徴があること。糖尿病などで高血糖の状態では正確な結果が出ないことがあります。

さらに、本来は赤く光れば『異常がある』サインなのですが、尿の通り道となる臓器は赤く光りやすいため、PET検査で腎臓がんが見つかった畠中さんのケースは意外ですし、珍しいといえます」(同前)

PET検査でがんの発見が難しい臓器はほかにもある。

「脳も糖をエネルギーとして使う臓器ですので、異常がなくても薬剤が集積してしまいがちです。脳腫瘍を見つけることには、適さない検査なのです。空間分解能は【MRI】のほうが優れています。私は、40歳を過ぎたら、MRIによる脳ドックをおすすめしています」(同前)

MRIは磁石や電波を、よく比較される【CT】はX線を利用して、体内を断面像として描写する検査だ。

「CTは、広範囲に画像解析できる半面、被ばくのリスクがあります。一方、MRIは1回で撮影できる範囲が狭く、全身の転移の指標などには向きませんが、脳などの限定的な部位を検査するときには、大きな効果を発揮します」(同前)

くぼたクリニック松戸五香(千葉県松戸市)院長の窪田徹矢医師はがんの早期発見についてこう語る。

「胃の【バリウム検査】は手軽に受けられることで人気ですが、ほかのレントゲン検査と同様、小さい胃がんの組織などは発見しづらいのは否めません。固形がんにはやはり、【内視鏡検査】がベストだと思います」

●腰痛で湿布を処方したが、前立腺がんだったケースも

泌尿器科医である窪田医師は、専門の見地から正しい診療科を選ぶことの重要性について解説する。

「『腰が痛い』ということで、長く整形外科に通っていた高齢の男性患者さんが私のクリニックに来院しました。これまでは毎回、痛み止めと湿布を出されていたということでしたが、私が検査したところ、前立腺がんだったことがわかったのです。

前立腺がんは基本的に無症状です。腰が痛いという段階になると、すでに骨に転移している。腰痛が続いている男性は、泌尿器科を受診してほしいです」

最後に、最近話題を呼んでいる【遺伝子検査】は、がんを早期発見できるのだろうか。

検査でがんになりやすい遺伝子をもっていることがわかると、治療方法の選択や予防、早期発見に役立つという。五良会クリニック白金高輪(東京都港区)理事長の五藤良将医師に聞いた。

「保険適用でおこなう遺伝子検査は、すでにがんである患者さんを対象としたものです。検査を受けるためには『標準治療がなく、局所進行または転移が認められ、標準治療が終了となっている固形がん』であることが条件であり、あくまでも治療の選択と管理を目的にしたものです。早期がんを発見するための検査ではありません」

インターネットなどで数千円から購入することができる遺伝子検査にも注目が集まっているが、その信頼度はけっして高いものではないと五藤医師は言う。

「市販されているセルフ遺伝子検査キットは、精度についての情報公開がまちまちですし、あくまで “リスクの可能性” を提示するものです。がんを発見できるものではありません」(同前)

人間ドックを受けているから大丈夫。そう安心している間に、検査をくぐり抜けたがんが、密かに進行しているかもしれない。正しく必要な検査をすることが、いかに大事か――。

【レントゲン検査】【腫瘍マーカー検査】【PET検査】【MRI】【CT】【バリウム検査】【内視鏡検査】【遺伝子検査】…8大検査のメリット・デメリットをしっかり把握しておきたい。

写真・本誌写真部
取材/文・吉澤恵理(医療ジャーナリスト)

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