「今までの自分に戻るというより、全然違う自分になりたい」完全開花を目指す中日・梅津滉大がやっとつかんだ“手応え”<SLUGGER>

過去2年連続で最下位に沈んだ中日ドラゴンズ。今季は開幕カードこそ1分2敗と負け越したものの、オープン戦では21年ぶりに首位となり、巻き返しを予感させている。

オープン戦のチーム防御率は12球団トップの1.97。その中で、先発ローテーションの一角に食い込もうとしているのが、2022年3月にトミー・ジョン手術を受け、昨季終盤に復帰を果たした梅津晃大(27)だ。

「今までの自分に戻るというよりは、全然違う自分になれるようにしたい。僕はパワーピッチャーなので、大谷翔平さんのように手術明けでさらにパワーアップしているみたいなイメージを描いていました」

そんな思いを胸に秘め、手術から1年以上にわたるリハビリに打ち込んできた。改めて振り返ってみるとその長い月日は、梅津にとってとても有益な時間となっていた。

手術後しばらくは投球ができず、必然的に考える時間が増えた。そこで自分自身と向き合った梅津は、あることに思い当たった。

「手術前は『あのメニューをしなきゃ、これもやっとかなきゃ』って、毎日やる練習メニューが多くて、自分で窮屈にしていた部分があったと思うんです。毎日、修行していたというか、自分に厳しく、ひたすらトレーニングみたいな感じだったんですよね」 プロ1年目の19年に4勝を挙げたものの、翌年からは思うように成績は伸びなかった。そんな中でチーム内のライバルたちに負けないよう、上を目指して練習に取り組むうちに気持ちが内側に向き、自分自身を追い込んでいたことに気づいたのだった。

「今は『一番大事なところをどれだけ良くできるか』っていう感じで、その日を万全な状態にすることを優先して準備するようになりました」

自分を見つめ直し、練習への取り組む姿勢を変えたことで精神的な負担が減り、やるべきことをシンプルに考えられるようになった。

投球を再開してからは、右肘への負担が少ないフォームを模索した。

「僕は投球時に、右肘が(肩から下に)下がってしまうので、その状態で投げると肘に負担がかかってしまうため、そこを改善しようと肘の高さを意識してやっていました。ただ、やっては駄目、やっては駄目で……。ちょっといいなっていう日があっても、やっぱり駄目の繰り返しでしたね」

身についた動きはそう簡単には変わらない。それでも梅津は諦めなかった。誰もいなくなったブルペンでひとり黙々とシャドーピッチングを繰り返す。地道な反復練習の繰り返しで、理想のフォームが徐々に身体に染み込んでいった。「1年半くらい毎日、いいフォームをめちゃくちゃ意識して投げて、動画を撮っては見返してを繰り返しました。最初は意識しないとできなかったのですが、今ではある程度は無意識に投げたいフォームで投げられるようになってきましたし、(フォームの)修正力もついたかなと思っています。毎日の反復練習は時間がないとできないことですが、(リハビリの)長期間をうまく使うことができたと思います」

怪我という不本意な形ではあったが、立ち止まって考える時間を得たことで、自分自身の内面と投球フォームを見直すことができた。自分の芯をしっかり持った新しい「投手・梅津晃大」は、長いリハビリ期間でゆっくり熟成されていったのだ。

本格復帰となる今シーズン、2月のキャンプでは実戦形式初登板でいきなり154キロを計測して首脳陣を驚かせると、3月に登板したオープン戦2試合はいずれも4イニングを投げ、順調な仕上がりぶりを見せている。

キャンプ前から梅津への期待の声は大きかったが、その声は本人にも、もちろん届いていた。

「今年、期待している選手として、僕の名前を挙げてくださる方が多いので、すごく嬉しいんですが、自分はまだ何も結果を残していない選手。高校時代は補欠でしたし、大学でも1勝しかしていない。自分の実力より皆さんの期待の方が先に行っていて、あとから自分が追いかけているような感覚なので、何か不思議な人生だなと思っています。でもその期待に応えたいですし、皆さんの期待しているところまで行きたいと思って、毎日取り組んでいます」
今までなら、プレッシャーになっていたかもしれない。しかし、困難を乗り越えた今の梅津には、周囲の期待が大きな支えになっているようにも感じられた。

仙台育英高の1学年先輩でもある上林誠知(28)の入団も、大きな刺激となっている。

「自分は補欠でしたが、(上林は)高卒でプロに行って結果を残した方ですし、挨拶しかできないくらい憧れの先輩。その方とプロで一緒にプレーできるのはすごく嬉しく思っています。自分も手術をして、底からの浮上を目指していますが、誠知さんもゼロからのスタート。ただ(上林は)一軍で活躍されていますが、僕はまだチームに貢献できていないので、まずはひと花咲かせたいですね」

周囲の期待を受け、尊敬する先輩とともに歩む今シーズン、梅津はどんな目標を抱いているのか。

「『2ケタ勝利を』と毎年言っていましたが、まずは投げないことには自分の目標は進んでいかないので、1年間通して投げたいですね。中6日で回らない可能性もありますが、20試合とか、100イニング以上とか、一軍に長い期間いられたというところを自分で評価していきたい。『今日は7イニング投げられたから、次回も同じかそれ以上に』というところを目指して行けたらと思っています」

プロ6年目を迎えた梅津晃大。真価が問われる1年が間もなく始まる。

取材・文●岩国誠

【著者プロフィール】
岩国誠(いわくにまこと):1973年3月26日生まれ。32歳でプロ野球を取り扱うスポーツ情報番組のADとしてテレビ業界入り。Webコンテンツ制作会社を経て、フリーランスに転身。それを機に、フリーライターとしての活動を始め、現在も映像ディレクターとwebライターの二刀流でNPBや独立リーグの取材を行っている。

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