『呪術廻戦』夏油一派はなぜ夏油傑を愛したのか……最終決戦にまで影響を及ぼす最強の“人たらし”

※本稿は『呪術廻戦』最新話までの内容を含みます。ネタバレにご注意ください。

4月1日に発売された『週刊少年ジャンプ』18号にて、芥見下々によるマンガ『呪術廻戦』の第255話「人外魔境新宿決戦(27)」が掲載された。そこでは今まで消息が不明だった夏油一派の残党が意外な形で再登場を果たしており、読者のあいだで大きな話題を呼んでいる。さらに注目すべきは、彼らのリーダーである夏油傑のカリスマ性があらためて強調されていたことだ。

夏油といえば五条悟の親友にして、“最悪の呪詛師”と呼ばれたキャラクター。過去編にあたる『呪術廻戦 0 東京都立呪術高等専門学校』では新宿と京都で「百鬼夜行」と呼ばれる大規模な呪術テロを引き起こしたが、そこで仲間として動いていたのが夏油一派の面々だった。

彼らはたんなる同士ではなく、“家族”と語るほど心理的に強く結びついた集団で、夏油に対する思い入れも熱烈なものがあった。計画が失敗に終わって解散した後も、多くのメンバーが自分なりのやり方で夏油に報いようとしていたほどだ。

第255話ではそんな夏油一派の生き残りであるミゲルとラルゥが登場し、宿儺との決戦に参戦を果たすことに。そのなかで、彼らが自分たちの行動原理について話し合う回想シーンも描かれていた。いわくミゲルには「夏油だからついていった」というシンプルな動機があったらしく、ラルゥは自分も含めて夏油一派はただ夏油を慕う集団だったと振り返っている。

呪術師の行動原理にはさまざまなものがあるが、金のために動く者も多く、どちらかといえばエゴイスティックな生き方をしている印象が強い。純粋に“夏油を王にしたい”という想いで結託していた夏油一派は、やはり稀有で特殊なあり方だったのではないだろうか。

逆にいえば、それだけ周囲の人間を心酔させていた夏油のカリスマ性には驚くべきものがあるだろう。思えば夏油一派のみならず、呪術高専時代の五条もその強い影響を受けていた。公式ファンブックにおける芥見の解説によると、善悪を判断するための指針を夏油に委ねていた節があるというほどだ。

ちなみに同じく公式ファンブックでは、夏油が作中で一番モテる男性キャラクターであることも明かされている。

それでは、なぜ人々は夏油に心酔したのだろうか。その理由の1つは、彼がどこまでも「呪術師が生きることの意味」を突き詰めて考えた人物だったことにある。

信者ではなく「家族」だった夏油一派

夏油は呪術高専の頃から、命を賭けて戦う呪術師にとって「何のために戦うのか」という意味付けが重要であることに気づいていた。そこで非術師の醜さや、呪術師の命が軽く失われていく現実に気づいたことで、「非術師のために戦う」という意味付けを拒絶するに至る。そして非術師を根絶し、「術師だけの世界」を作ることを目指すようになるのだった。

この決断は決して軽いものではなく、夏油は闇堕ちのきっかけとなった事件の直後、非術師である両親の命を自らの手で奪っている。自分の家族を特別扱いするわけにはいかなかったと語っていたが、これはあらゆる非術師を拒絶し、呪術師の味方として生きていくという覚悟を証明する行為だったのだろう。

代わりに夏油は信念を共にする仲間たちを新たな「家族」として、彼らが幸せに生きられる世界を作ろうとした。一切の迷いなく大義のために命を賭けて戦う姿は、特別な輝きを放っており、いわゆる救世主や教祖のそれに近い。

一般的には大義を信じて行動することは、その副産物として“狂信”を生むため、ある種の危険性をはらんでいる。しかし夏油が真に魅力的なのは、教祖として振る舞う意図がなかったと思われるところだ。

たとえば夏油は呪術高専から離脱した後、非術師が関わらない範囲で衣食住を済ませるようになったのだが、そのポリシーを仲間に押し付けようとはしなかったという。また「百鬼夜行」の際には、できるだけ仲間たちに命の危険が及ばないように配慮していた。あくまですべての計画は自分の信念によるもので、仲間たちはその道連れという意識があったのではないだろうか。

そうしたスタンスは、解散後の夏油一派の行動からも読み取れる。彼らは菅田真奈美と祢木利久を除いて、大義を受け継ごうとはせず、ただ夏油を弔うことを目的としていたからだ。最新話でも、ラルゥがミゲルを誘ったのは復讐ではなく弔い合戦だった。

そう考えると、夏油一派が心酔していたのは世界を変える救世主ではなく、むしろ「家族」を導いてくれる愛すべきリーダーだったのかもしれない。

いずれにしろ、彼のカリスマ性は作中に大きな痕跡を残しており、最終決戦にまで影響を及ぼしている。乙骨憂太が女たらしだとすれば、夏油は作中屈指の“人たらし”と言えるだろう。

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(文=キットゥン希美)

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