NPB球団を圧倒…突如現れた“謎の日本人投手” 「契約するって」漏れ聞いたテスト合格

CPBL台鋼ホークス・小野寺賢人【写真:球団提供】

台湾のウインターリーグで決勝のMVPに輝いた台鋼ホークスの小野寺賢人

今オフの野球界を沸かせた一人の日本人投手がいる。台湾で開催され、各球団の将来を担う若手の有望株たちがしのぎを削った「アジア・ウインターリーグ」。NPBからも2チームが参加したが、優勝を飾ったのはCPBL(台湾プロ野球)の台鋼ホークスだった。そして決勝のMVPに輝いたのが小野寺賢人投手だ。

12月17日に行われた決勝戦では、NPBレッドと台鋼ホークスが対戦。台鋼先発の小野寺は、走者を出しながらも自慢の制球で3つの併殺を奪って8回まで無失点。9回先頭の桑原秀侍(ソフトバンク)にソロを被弾し、完投まであと1死で足を攣って降板したが、8回2/3を投げて6安打1失点とNPBレッドを圧倒した。

では突如として現れた謎の日本人投手、小野寺とは何者なのだろうか。ウインターリーグでは4試合に登板して2勝0敗、防御率3位の0.92。決勝の好投がまぐれではないことがわかる好成績だ。しかし、決勝戦を終えるまで台鋼ホークスの正式な選手ではなく「テスト外国人」として参加していたのだから驚きだ。

宮城県出身の25歳で、聖和学園高から星槎道都大に進学。クラブチームのTRANSYSを経て、ルートインBCリーグの埼玉武蔵に入団した。2022年には13試合に登板して5勝1敗、防御率1.65の成績で最優秀防御率とベストナインのタイトルを獲得。昨季は10勝2敗1セーブ、防御率3.19の成績で、最多勝、最多奪三振と投手部門MVPにも輝いた。しかし、待っていたのは2年連続の指名漏れだった。

「2022年は実際に調査書もいただいて。自分ができるアピールは全部したんじゃないかというくらい、本当にやった1年でした。年齢もやっぱり25歳だったので、本当に1番のチャンスでした」と振り返る。一方で、昨年は調査書が届かず。「去年に関しては、もう土俵に立てていないという感じでした。でも、これで無理なら無理だろうくらいのやり切ったという気持ちでした」という。

すぐさま気持ちを新たなチャレンジに切り替えた。ちょうどその頃、2024年からCPBLの1軍に新規参入する新球団の台鋼ホークスが、日本の独立リーグで投手を探していた。同球団の横田久則投手コーチと小野寺を見てきたNPBスカウトの縁などで声がかかり、テスト生としてウインターリーグ参加が決まった。

描くビジョン「1番大きい目標は、逆輸入でのNPBからのドラフト指名です」

この時、テスト外国人として参加していたのは小野寺の他に3人。しかも、正式に契約できるのは多くても1人という狭き門だった。「決勝戦に投げる前も、『今日がお前の最終テストだ』みたいな感じだったので、本当にもう決勝戦がなかったらここにいないかもしれないです。本当にわからなかったです」。無我夢中で腕を振った結果が、一世一代の好投を生み出したというわけだ。

試合は7-1で台鋼ホークスが勝利して優勝。超満員となった球場が地元・台湾の球団の優勝に沸く中、足を攣って降板していた小野寺はベンチに座りながら囲み取材を受けた。そこで台湾の記者の一人が「さっき監督が来年契約するって言ってたんですけど、気持ちはどうですか?」と質問。「え、そうなのって。そこで知りました」とまさかの形で正式契約を勝ち取った知らせを受けた。

小さい頃からの夢は、プロ野球選手。NPBのドラフトでは指名されなかったが、台湾の地でようやく実感が沸いてきた。「ファンの方がいたらサインしてほしいとか、そういう反応が全然違くて、本当にプロ野球選手みたいな、そういうのを感じてますね。全然違うなって」。そして新たな目標も決まっている。

「1番大きい目標は、逆輸入でのNPBからのドラフト指名です。本当に目標というか、1番おっきい夢というか。1番最高の形ですね。あまり人が歩んでいない道を行くっていうのもありますし、僕の活躍次第で、アジアのプロ野球からの日本の独立リーグの評価っていうのを、けっこう僕が左右すると思うので」

すでに将来のビジョンを描いている25歳。目標に向かって新天地でのキャンプに臨んでいたが、ここでも新たなサバイバルが待ち受けていた。チームには6人の外国人選手が在籍しているが、新球団の台鋼は支配下登録できるのが5人(他球団は4人)まで。さらに、その中から1軍登録されるのは4人までだった。

「僕が全部結果を出したからといって、1軍に残れるわけではない。本当に自分でコントロールできないことはもう無視して、自分の投げる試合に集中するしかないです」。オープン戦では2試合に先発して防御率1.80、堂々の開幕1軍を掴んだ。台湾の地でシンデレラボーイになった右腕、小野寺の挑戦が始まる。(工藤慶大 / Keita Kudo)

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