企業変革には「対立」が必須だが…対立を「力に変えられる組織、変えられない組織」の決定的差

(※写真はイメージです/PIXTA)

「こんなに頑張っているのに、なぜ組織は変われないのだろうか?」生き残るために組織変革の必要性が高まるなか、こうした事態に直面する企業が絶えません。240社・15,000人以上の成長支援を行った筆者らは、変われない理由の一つに「対立」を力に変えられていないことを挙げています。西田徹氏・山碕学氏による共著『組織が変われない3つの理由』(松村憲氏監修、日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、見ていきましょう。

<前回記事>

「組織内の『対立』は避けるべき」←YESかNOか?日本中の〈頑張っているのに変われない企業〉が疑うべき“旧常識”

「対立」は組織変革の原動力

戦略的組織開発において、対立は避けるべきものではなく、潜在的な力・可能性そのもので、変革の原動力となるものです。では、一体なぜ、対立が変革の原動力となり得るのか、その背景を解説していきます。

まずは、典型的な対立のエピソードを見ていきます。これは、実際の企業で起きた事例をもとにしつつ、守秘義務の観点から多少の脚色を加えたものです。

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【事例:ある組織で起きた、営業部と製造部の対立】

田中産業(仮名)は、BtoBの素材メーカー。製造部と営業部の仲が悪く、いつも対立の火種がくすぶっています。

たとえば商品Aを市場に投入した際のことです。製造部は、納期を「2週間」と主張しましたが、営業部は「1週間でなければ販売は難しい」と主張。この時は、社長の仲裁が入りました。

「まぁまぁ、そう熱くならないで。お互いに何とか譲歩できるだろう」

その結果、あいだをとって納期は「10日」と決まりました。

これは一見バランスがとれた結論にも見えます。しかし、製造部、営業部の双方の不満は募るばかりです。

製造部は、こう言います。

「10日納期じゃダメなんだよ。2週間ないと、必要な化学反応が終わらず、製品が安定しないんだ」

一方、営業部にも不満があります。

「10日納期じゃダメなんだよ。競合は同じような製品を1週間納期で販売している。3日遅いことは致命的なんだ」

そんなある日、商品Aのプロジェクト会議で、営業担当者が興奮して話し始めます。

「すごいことが起きるかもしれません。大口顧客のZ電気さんが、商品Aに興味を持っていて、5日納期で対応できるならば、年間10億円分を発注しても良いって言っているんです。製造部の皆さん、何とか納期を5日に短縮できませんか?」

この意見に、製造部のメンバーが答えます。

「あんたは何もわかっていないな! 元々2週間と1週間のあいだをとって10日間で落ち着いたんじゃないか。それを今の半分の5日間なんてできるわけがない」

営業担当者も、売り言葉に買い言葉で答えます。

「あんたこそ何もわかっていないな! 年間10億円の売上が、今の田中産業にとってどれだけ重要かわかっているのか」

会議を重ねても、製造部と営業部の溝は埋まりません。こうした状況のもとで、私たちが組織開発のプロジェクトを引き受けることになりました。

じっくりと時間をかけて様々な角度からアプローチをしたのですが、直接的に功を奏したのは、「薪を燃やし尽くす」こと。お互いに感じている不満を出し合うことから始まる取り組みです。これによって、はじめて相手の立場が深く理解できるようになりました。

お互いの本音を理解し合った後、営業担当者は話し始めました。

「製造部の皆さんが、不良品を出さないようにするために、どれだけ張り詰めた気持ちで日々立ち向かっているか…頭ではわかっていたつもりですが、今、腹の底からわかったような気がします」

それに対して、製造担当者も言います。

「営業部の皆さんが、売上責任のプレッシャーの中で手ごわい競合と戦いながら営業活動を行うって…頭ではわかっていたつもりだけど、今、その辛さが息苦しさとして感じられます」

そんな時、ふと製造担当の一人が口にしました。

「商品Aのスペックって主に5つあるけど、その2つ目が3600じゃなくて1200でも良ければ、5日の納期で対応できるかもしれない」

「えっ! そうなの? Z電気さんにとっては2つ目のスペックは多分重要じゃないはず。早速電話をしてみます」

営業担当者は、そう言って会議室から飛び出して行きました。

最終的にこの会話の思惑通りに物事が進み、全ての関係者が大満足する結果が得られたのです。

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5つの対立の解決策──コンフリクト・マネジメント・モデル

このエピソードを、トーマス・キルマンのコンフリクト・マネジメント・モデルにあてはめて分析してみましょう(図表1)。

[図表1]トーマス・キルマンのコンフリクト・マネジメント・モデル 出所:西田徹・山碕学共著、松村憲監修『組織が変われない3つの理由』(日本能率協会マネジメントセンター)

製造部は当初2週間の納期を提示しました。これは自部署の立場を強く配慮し、営業部の立場をほとんど無視した態度で、マトリクスの左上の「競争的」にあたります。

一方で営業部が提示した1週間という納期も同じく、自部署の都合だけに配慮した「競争的」な態度であり、両者が真っ向から対立するという構図となりました。

最初は、この段階で社長の仲裁が入ります。そして、10日間の納期で帰結したのでした。ここでの社長の仲裁は、マトリクスの真ん中の部分の「妥協的」な解決です。

表面的には、妥協によって問題は解決したように見えます。しかし、実際はこのケースのように、問題の本質は全く解決していないケースが多々あります。

このエピソードに限らず、対立した時の解決策として「妥協」は真っ先に思いつく手段です。しかし実際には、妥協は望ましい解決策ではありません。

また、このエピソードとは異なりますが、会社によっては製造部と営業部のいずれかが強い力を持っているケースもあります。たとえば、製造部の立場が強く、営業部の立場が弱い場合、製造部が主張する「2週間の納期」が結論となり、営業部の主張は蔑ろにされたまま、製造の主張のみを受け入れた「受容的」な結論となります。

このように、立場の強いほうが「競争的」、弱いほうが「受容的」となる帰結はよくありますが、健康的な解決ではありません。多くの場合、「受容的」な結論を強いられるのは、いつも立場の弱い側です。立場の弱い側が、受容的な結論を強いられ続けることでうまくいっているように見えますが、その裏では、怨念のようなものが、地面に深く潜って潜伏していきます。そしていつの日か、たとえば職場放棄といったテロ行為的な事件へと発展することも、稀ではありません。

理想的なのは「協調的」な解決

エピソードでは、対立の「薪を燃やし尽くす」ことにより、はじめて相手の立場が深く理解できるようになりました。その結果、商品Aの2つ目のスペックを落として5日納期を実現するという結論に至りましたが、この帰結は、図表1のモデルのどこに位置づけられるでしょうか。

製造部は「不良品を出したくない」というその真摯な思いを守ることができています。また、営業部も「売上のチャンスを逃したくない」という思いを大切にしてもらえました。製造部と営業部の部署間葛藤から始まったこの物語は、最終的には右上の「協調的」と名づけられた領域へとたどり着いたのです。

「協調的」な解決を実現した“ガチ対話”

なお、このエピソードには2種類の異なる「ガチ対話」がありました(図表2)。

[図表2]2種類のガチ対話 出所:西田徹・山碕学共著、松村憲監修『組織が変われない3つの理由』(日本能率協会マネジメントセンター)

まず、大型受注の引き合いの直後に起きた激論は、営業部・製造部の双方が自部署の利害を守るため、それに理解のない相手を「何もわかっていないな!」と罵り合いました。これは頭に血が上っている状態での、自己防衛のためのガチ対話です。対立はこのような形で始まりますが、多くの場合はこの状態のまま会話が終わり、相手側へのわだかまりが残り、関係が悪化することになります。

介入がうまくいくと、ガチ対話は図表2の下半部へと移行します。

エピソードの中で、営業部と製造部がそれぞれ相手の立場を深く理解し、その感情を表に出した場面がありました。このモードがさらに続けば営業担当者は、迫りくるノルマ数字への恐怖や、お客さまが喜んでくれた時のやりがいを本音で語り出すかもしれません。そうなると製造部からも自己開示が始まります。

このようなやりとりは、腹を割って話している状態での、大切な思いを開示し合うガチ対話です。対立を力にするためには、この意味でのガチ対話が必須となります。

このようなガチ対話が実現する確率を高めるには、訓練された社内・社外の支援者のサポートを得ることをお勧めします。支援者たちは、コーチング的な質問を投げかけたり、対立している相手の役割をとってもらったり、深い思いをポーズや動作で表現するように促したりして大切な思いを互いに開示し合うことを促進するでしょう。

ガチ対話を支援するための働きかけ方について、詳しくは次回以降で紹介します。

【著者】西田 徹

バランスト・グロース・コンサルティング株式会社 取締役

【著者】山碕 学

バランスト・グロース・コンサルティング株式会社 取締役

【監修】松村 憲

バランスト・グロース・コンサルティング株式会社 取締役

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