広角レンズで(4月4日)

 道路整備や災害対策といった公共事業。大切な役割を担っていると教えたのは、英国の経済学者ケインズだ。雇用を生み、景気を安定させると▼母国が勝利した第1次世界大戦の戦後処理に関わった。敗戦国ドイツに対する巨額の賠償金請求に異を唱える。欧州の経済的結び付きは強く、無理強いすれば地域全体の没落を招くと考えた。「ひいきだ」と反発を受ける(伊藤宣広著「ケインズ」)。過度な負担にあえいだゲルマンの大国は社会不安にさいなまれ、ナチスが台頭した▼国家の出費は、時代を超えて議論を巻き起こす。1年後に迫った大阪・関西万博。予算は想定を超える。お叱りを受けるのも、もっともだが…。目玉の木造大屋根にも巨費が投じられるが、設計者には思いがある。原発事故の影響を受けた県産材を使う。「林業が低迷しているので、お手伝いできれば」。被災地に思いを寄せる契機となれば、素直にうれしい▼ヒトラーの進軍を前に、ケインズは「あの時、各国が幅広い視野で物事を判断していれば事態は違った」と嘆いたかもしれない。予算という単眼を広角レンズに切り替え、世紀の「公共事業」を見詰め直す。育てたい木の芽が必ずある。<2024.4・4>

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