頑張れNHK!「ニュースーン」物足りないぞ

安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト

【まとめ】

・NHKの午後のワイドショー「ニュースーン」、4月に始まる。

・その日の大きなニュースをもっと深掘りを。

・もっとNHKのリソースを惜しみなく投入してもいいのでは。

4月になり、鳴り物入りで始まったNHKの午後のワイドショー、「午後LIVE ニュースーン」。

先月放送された予告編を見て感想を書いたが、どうやらあまりNHKの中の人には響かなかったようだ。

基本、なんの手直しもなく、ほとんど予告編の構成を踏襲して放送されている。

さて、きょう4月3日は大きなニュースが二つあった。一つは台湾の大地震であり、もう一つは静岡県川勝平太知事の突然の辞任表明問題だ。

メインニュースの取り上げ方

民放は、メインのニュースは一点豪華主義で、多くの時間を割いて放送する。事前に準備していた特集や、その他のニュースは仮に中継車が出ていようがいまいが、ボツにするのは当たり前だ。

ニュースーンも、もちろん、台湾、川勝知事、両方とも取り上げていた。

まず台湾地震だが、ニュースーンより、民放の扱いの方がぶ厚かった印象だ。具体的にいうと、民放の方が津波警報が出た沖縄の様子を多めに放送していた。ローカル局の記者やアナウンサーが空港や海岸に近いリゾートなどに行き、中継で現地の様子を伝えるといった具合だ。

NHKはというと台北支局長と中継で結んでやりとりしていたが、現場からの中継はなく、今ひとつ臨場感に欠けた。台湾のテレビの放送を流していた方がよほど現場の惨状が伝わっただろう。台湾各地にNHKの協力スタッフはいるだろうから、被災地に近いところからの声も流せたはずだ。自然災害の時は基本的に現場の情報を一刻も早く流すべきで、そういう意味から今日のニュースーンの中継は物足りなかった。。

また、日本の視聴者にとって今すぐ知りたいのは、沖縄の情報だ。民放は空港にリポーターを派遣し、春休みで沖縄に来た人たちの混乱ぶりや、地元の人たちの津波に対する恐怖などを、うまくすくい取り放送していた。それに比べ、ニュースーンの現地リポートは、民放に比べあっさりした印象だった。せっかくの取材力を今ひとつ活かせてない感じがした。

また、川勝静岡県知事辞任問題にも同じ感想を抱いた。民放含め、どこも知事による入庁式での職業差別発言が辞任の原因などとしていたが、もちろんそんなことは理由の1つに過ぎず、3日15時過ぎの会見で知事がいみじくも言っていたように、リニア新幹線が「大きな区切りを迎えたこと」が辞任の理由となっていることは明らかだ。

NHKの取材網をもってすれば、なぜ急に知事が辞意表明をしたのかを深掘りしてほしかった。

川勝知事は、2027年の名古屋までの開業が2037年になる見込みであることを勝利宣言のように語っていたが、なぜそれが辞任につながるのかさっぱりわからない。すべてはこれからのはずだ。

周辺自治体(もちろん静岡県も含め)が被った不利益は一体だれが責任をとるのか。なぜ、自治体の長が国家プロジェクトをこれほどまでに遅らせることができたのか、県とJR東海はなぜ歩み寄ることができなかったのか、国はその間何をしていたのか、など論点は山ほどある。

そして、知事辞任の裏に一体、どんな力が働いたのか。次の市長がリニア推進派になったら事態はどう動くのか。不確定要素が多いとは思うが、現時点で考えうるあらゆる分析と予測を展開してもらいたかった。それでこそNHKだろう。それがないなら、民放となんら代わり映えしないことになってしまう。

立憲民主党県連顧問の渡辺周元防衛副大臣に後継を打診していたというニュースも流れる中、中継で渡辺氏と結ぶ位のチャレンジがあってもよかった。また与党自民党には、静岡5区選出の細野豪志衆議院議員もいる。次の県知事選は一体どうなるのか。そこまで扱っている番組はなかったが、NHK政治部の分析を期待したかった。

■ 現場中継について

前回の記事でも指摘したが、「今日のおまかせ」というコーナー。ブラタモリの焼き直し、アナウンサーがお題(ミッション)をもらって現場を走り回るというコーナーなのだが、きょうは東京北区の十条銀座商店街から。アナウンサーに与えられたミッションは、「商店街で”意外な話”を聞き出しオリジナル弁当を完成させよ!」というもの。意外な話でないと、弁当箱に商店街で売っている食べ物を入れることができない、という縛りの中、アナウンサーが苦労して駆けずり回っていたが、このコーナーを無理にやる意味が正直わからない。結構な尺を割いて、現場とスタジオでわちゃわちゃやりとりしていても視聴者はちっとも感情移入できない。大きなニュースがあるときに無理に入れるものでもないと思う。

そして、もうひとつ「かけつけライブ」という現場リポート。相も変わらずスマホでアナウンサーが中継している。背面カメラと前面カメラを切り替えながら映像を撮っている。スマホのマイクは自分の声はよく拾うが、インタビューする人からは離れているのでうまく拾えない。よって、外付けのマイクを相手に近づけ音を拾っている。

スマホを操り中継しているアナウンサー、ずいぶん器用なものだと感心したが、映像だけでなく、音にも気を遣わねばならないというのは、テレビ記者じゃないとわからないが、かなり大変な作業だ。そうとうリハーサルをやらないとああはいかないはずだ。本番で破綻なく中継していたアナウンサーを褒めてあげたい。しかし、果たしてそこまでしてスマホ中継やる必要あるの?と思ってしまう。

前回指摘したとおり、予算もマンパワーも潤沢なNHKなのだから、惜しみなくリソースを割いたらいいのでは?臨場感を出すためにやっているのだとしたら、お止めになった方がいいのではと思う。

小言ばかり言っているようだが、これも愛のムチと思って聞いてもらいたい。

せっかくの全国、全世界の取材網をもっと生かし、民放を凌駕する面白いワイドショーを作ってもらいたい。そうすれば民放も刺激を受けてさらによりよいものを作ろうとするだろう。今のままではそれは期待薄というものだ。まだ番組開始3日、勝負はこれからだ。

トップ写真:イメージ 出典:batuhan toker/GettyImages

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