【掛布雅之が解説】岡田彰布と真弓明信「85年阪神タイガース優勝」に貢献した2人の強打者それぞれの特徴

(※写真はイメージです/PIXTA)

強力な選手陣と監督によって、1985年にも優勝を果たしている阪神タイガース。掛布雅之氏の著書『常勝タイガースへの道 阪神の伝統と未来』(PHP研究所)より、元阪神タイガース岡田彰布氏・真弓明信氏ら2名への分析を通して、85年に阪神が優勝を成し遂げた要因をみていきましょう。

岡田彰布 相手の決め球を打つ

85年時の日本一の不動のレギュラーであり、2005年には阪神の監督としてリーグ優勝を果たした。2023年も見事リーグ優勝を果たし、クライマックス・シリーズに勝てば、日本シリーズでの戦いが待っている。阪神打線の神髄を語る上で外せないキーパーソンである。

岡田は、父親が阪神の有力後援者であり、幼いときから阪神タイガースの新人選手の寮である虎風荘にも出入りし、甲子園球場でも三塁側の家族席でよく観戦していたという。小学生のときに早慶戦を観戦し、早稲田の臙脂のユニフォームに憧れを抱き、早稲田大学進学を夢見たと聞く。

北陽高校(現・関西大学北陽高校)時代は、まだ木のバットを使用する選手が多かったが、20本以上ホームランを打っていた。金属バットが高校野球に登場するのは、高校2年生の夏ごろからだったという。早稲田大学1年時には、7番バッターで出場した試合で3打数3安打を放った。相手は法政大学の江川卓投手だった。

岡田の打撃の特徴は「初球は打たない」というものだった。ピッチャーは5種類くらいの球種を持っていて、初球は何がくるかわからない。だからど真ん中のストレートでもバットを振ることはなかったという。2ストライク後には、カウントを取るようなカーブを投げ込んではこない。つまり、追い込まれてからのほうが球種を絞りやすかったのだ。決め球はストレートあるいはフォークなど、どちらかを狙えばよい。

85年の3連発のときは、岡田自身にとってもシーズン初本塁打だった。バースもシーズン初本塁打だったこともあり、自分1人取り残されたという感覚だったらしい。

2023年からの第2次の阪神監督に就任した岡田は「少し変えれば、(選手は)全然打てると思います」と発言していた。2022年シーズンの阪神打線は打率2割4分3厘、本塁打84本。安芸キャンプではストレートに弱い打線の改善に取り組んでいた。得点圏打率2割4分1厘でリーグ5位。勝負強さにもこだわりをもって打撃指導していた。

それは「差し込まれるな」「前で打て」という指導だ。

現役のときの金本知憲のように、ギリギリまでボールを呼び込んで、後ろ足に体重を残して打つことは、卓越したバットスイングができる選手でなければ、なかなかできるものではない。

真弓明信 バッティングは泳いで打つ

阪神の打撃を語る上で、85年の不動の1番打者の真弓明信選手を語らないわけにはいかないだろう。

通算先頭打者本塁打歴代2位の記録を持ち、83年に首位打者を獲得。85年には1番打者として打率3割2分2厘、34本塁打というクリーンナップ並みの成績を残したことなどから、「史上最強の1番打者」と呼ばれている。

2009〜11年まで阪神監督を務め、2010年にはシアトル・マリナーズから城島健司、新外国人選手としてマット・マートンらを擁して、1リーグ時代を除けば球団最高のチーム打率となる2割8分9厘5毛、3割打者5人、90打点以上5人(うち100打点以上3人)、チーム安打は1,458本を記録して60年ぶりにセ・リーグ記録を更新した。

私が真弓さんとの思い出で鮮明に覚えているのは、85年のキャンプで「今年は勝てるだろう」と言っていたことだ。前年に池田親興、中西清起らが入団してチーム力が確実にレベルアップしていたことを実感していたのだろう。

真弓さんは、真っすぐを待っていてスライダーがきたら、それを泳ぎながら三遊間にヒットを打つということを意識していたという。我慢して最後にバットのヘッドを走らせるというイメージだ。そうするとボールにオーバースピンがかかって打球速度が増して、抜けやすくなるのだ。

真弓さんが言うには、外に逃げていくスライダーはひきつけて、一、二塁間を狙うようにと若いときはコーチに言われるが、そうするとなかなか内野手の間を抜けない。スライスがかかり、打球速度が遅くなるからだ。また、スライダーをひきつけて打とうとするとストレートが打てなくなる。ストレートのタイミングでスライダーがきて、泳ぎながらボールを見るとものすごくボールが見えてくる。当然、体勢は崩れる。あえて崩れることでボールが見えてくるらしい。

バッターが工夫すべき「タイミング」と「割れ」

真弓さんは1キロ近い重いバットを使用していた。それはやはり、我慢して最後にバットのヘッドが出てくることをイメージされていたからだ。

当時の投手の多くは2ボール1ストライクのバッティングカウントだと、スライダーを投げてきた。ストレートのタイミングで待ちながら、スライダーの軌道をイメージして、スライダーがきたら泳ぎながら打っていくのだ。

今のバッターは綺麗に打たないと駄目という意識を持ちすぎている。だから、泳ぐことを嫌う選手は多い。前でさばくということをわかっていない選手が多い。ポイントを近くにして打つ選手が多いと感じる。もっと楽に打てるポイントがあるにもかかわらずだ。

基本的に、今のバッターはタイミングの取り方がよくない。

投手がボールを投げるトップをつくったとき、バッターも打つトップをつくるくらいのイメージがよい。そして真弓さんは、トップをつくってから、少し始動してタメをつくらなければならないが、今の打者にはそれが欠けていると指摘する。

また、泳いだとしても、前の膝がボールに寄っていかなければならない。たとえば状態のよくないときの佐藤輝明のバッティングは、前の膝がボールに寄っていく体の沈み込みがなく、立ったままの状態である。

真弓さんは、足を上げてタイミングをとる打者は、足を下ろすことばかりを意識していてタイミングがとれなくなっていると言う。足を下ろすのと同時にバットを振ろうとする、と指摘する。いわゆる「割れ」ができていないのだ。バッティングにおいて「割れ」がないと手打ちになってしまう。

私のような左打者であれば、左足の股関節にしっかり体重を乗せて「割れ」をつくることが大切になる。私の場合は、大きくない体で体重移動をするために右足でツーステップをして、左足股関節に体重を乗せて打ちにいっていた。

そして、「割れ」をつくり左足に体重を乗せた後は、右足に体重移動をする。右投げ左打ちの打者であれば、右足が軸足だ。軸足とは、壁のようなものだ。だから、このとき左足は多少ずれてもいい。この壁を私はすごく意識していた。踏み込んだ後の蹴り返す足によって体が回る。右足の強い蹴りが、私の腰の回転を生んでいたのだ。

真弓さんは、アンダースローでゆっくりしたフォームで投げてくる投手にはスタンスを狭くして立ち、打つときにステップを大きくとる。あるいはクイックで投げてくる投手に対しては、ステップを小さくして打つなど工夫して打席に入っていたという。

今の打者でこうした工夫をしている選手は少ない。

掛布雅之

プロ野球解説者・評論家

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