台湾の大地震、Appleシリコン製造にも影響か

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台湾東部沿岸で3日朝に起きたマグニチュード(M)7.2の地震により、大手半導体ファウンダリ(受託製造)TSMCの一部チップ生産ラインが停止し、アップル製品などに影響が出る可能性が浮上している。

過去25年間で最大規模とされる地震により、少なくとも9人が死亡し、数百人が負傷。TSMCにも影響が及び、主要製造拠点の数か所が操業を中断した。

一夜明けてTSMCは、中断した施設での製造を再開しており、発生から10時間以内に全体の復旧率が70%以上、新工場では80%以上に達したと発表。

さらに「EUVL(極端紫外線リソグラフィ)装置を含め、当社の重要な装置には被害はない。一部の施設では少数の装置が被害を受けたが、完全な復旧を確実にするため、利用可能なすべてのリソースを投入している」と付け加えている。

しかし、電子業界誌DigiTimesの情報筋によると、台南にあるN3ファブ(工場)は「梁と柱が壊れ、生産ラインは止まった。EUVL装置はすべて停止し、研究開発ラボも壁にひびが入った」とのこと。さらに新竹ファブでもパイプラインやウェハーが破損したため、生産ラインは停止したという。

ここでいうN3とは、TSMCの3nmプロセス技術のこと。iPhone 15 Proモデルに搭載されたA17 Pro等の製造に使われているものだ。これらハイエンドチップ製造は、24時間操業と数週間にわたる安定した真空環境を必要とするため、一部は破損している可能性が高そうだ。

iPhoneやMacに搭載されたAppleシリコン(独自開発チップ)は、すべてTSMCが製造している。そのため、アップルの製品サプライチェーンにも遅れが生じる可能性が懸念されている次第だ。

TSMCは被害状況の確認と復旧作業の開始に向けて早急な対応を行っており、一部の生産ラインは速やかに操業を再開する見込みだが、今後のアップル製品に与える影響の全容は依然として不透明だ。

台湾は2つの地殻プレートが合流する地点に近く、地震が起きやすい。それでいてスマートフォンやAIなど高度な用途に必要なハイエンドチップの80~90%を供給している危うさがある。

これまでTSMCも災害への備えを重視しており、特に1999年に発生した大地震の後は対策を徹底していた。地震後の検査、建物への衝撃を軽減するダンパーやショックアブソーバーの設置、振動低減および免震技術を製造機器に組み込むなど、あらゆる手立てを尽くしている。

台湾は、武力による統一を否定しない習近平政権による「中国リスク」も抱えている。もしも武力侵攻があった場合は、中国にTSMCの高度な半導体製造施設を手に入れさせないため、米軍がそれらを爆撃するシナリオも検討しているとの報道もあった

今回の地震による影響は最小限に抑えられる見通しだが、それでも米国がTSMCのチップ製造能力をさらに自国に移せという圧力、あるいはインテルなど米国半導体企業への支援を強めることにも繋がるかもしれない。

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