『虎に翼』伊藤沙莉が親友の結婚式で感じた怒り 週タイトルの“?”に込められた意図

『虎に翼』(NHK総合)第4話では、花江(森田望智)と直道(上川周作)の結婚式が行われた。

花江は寅子(伊藤沙莉)の女学校の同級生で親友。直道は寅子の兄で、二人の出会いは第3話で明かされた。嫡子である直道は猪爪家の跡取りである。明治民法の下では、戸籍の筆頭者である家長が家族を統率し、長男が戸主を継ぐことになっていた。

寅子は、穂高(小林薫)に明律大学女子部法科にスカウトされ、父・直言(岡部たかし)の許しを得て、願書を提出した。ただし、はる(石田ゆり子)に話を通していなかった。嫁になる花江は、なるべく穏やかに式を執り行って、猪爪家の一員に迎え入れられたい。寅子は、花江のためを思って、はるの機嫌を損ねないように、式が終わるまで大人しく「したたかに」振る舞うと決めた。

ドラマの中で起こるイベントには意味がある。第4話の結婚式は、この時代に女性たちが置かれた立場を象徴的に表していた。かいがいしく酌をして回る寅子に、はるは「結婚って悪くないでしょ」とささやく。けれども、寅子の胸中は複雑だったことがナレーションで明かされる。「ここに自分の幸せがあるとは到底思えない」と吐露する寅子は、取りすました笑顔で男性を立てる女性たちの「スンっ」とした振舞いや、したたかに生きると言いながら遠慮してばかりの女と、それを強いる世間に怒りが煮えたぎっていたのである。

ちなみに披露宴で寅子が歌った「モン・パパ」は、昭和初期の“エノケン”榎本健一によるヒット曲で、原曲はフランス映画『巴里っ子』の主題歌である。歌詞は子どもの視点から家庭内の男女のパワーバランスをユーモラスに描くもので、一部、ステレオタイプな描写もあるが、『虎に翼』の猪爪家に通じるところもあって、なかなか意味深である。

事件が起きたのは式の直後。式場で寅子は穂高にばったり出くわした。直言とはるは穂高と旧知の仲で、というか、直言は穂高の教え子で、猪爪夫妻の結婚式で仲人を務めたのが穂高だった。直言は法律を学んでいたので、寅子の進学に反対しなかったと推察される。目を丸くする寅子に、穂高は合格を確約し「女子部で待っているからね」とほほ笑みかけた。

まずいことになったのは寅子だ。寅子を凝視するはるの目が怖い。二人きりになって謝る寅子に、はるは見合いを進めると言うが、寅子は胸に秘めた本心を切り出した。

第1週のタイトルは「女賢しくて牛売り損なう?」である。「女が利口そうにして出しゃばると失敗する」という意味で、女性が賢くあること、男性より前に出ること、女性の社会進出を否定するニュアンスが伝わってくる。もちろん、女性蔑視の時代錯誤な言葉を、そのまま本作のテーマとして受け取る人はいないだろう。大事なのは「?」だ。

寅子の「はて?」には、女である自分を抑圧する社会の仕組みや、その根底にあるルールを疑うことの重要性が示されている。女性たちが不平等な社会に適応し、疑問を抱くことさえ自身の中で抑圧していた時代に、心理的な壁を超えていくだけでも並大抵のことではない。男性中心の家制度の下で、苦労しながら生き方を確立してきたはるに、寅子の思いは届くだろうか?
(文=石河コウヘイ)

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