大企業の賃上げが中小に波及、賃金・物価の好循環「前進」=日銀支店長会議

Takahiko Wada Takaya Yamaguchi

[東京 4日 ロイター] - 日銀が4日に開いた支店長会議で、春季労使交渉(春闘)での大企業の高水準の賃上げ実現が波及し、地域の中小企業でも昨年並みあるいはそれ以上の賃上げの動きが期待できるとの報告があった。賃金の転嫁を実施・検討する企業が「着実に増加している」との報告も多数で、日銀の担当者は1月の支店長会議に比べ、賃金と物価の好循環は「前進している」との認識を示した。

日銀が公表した支店長会議での報告事項によると、持続的賃上げに向け企業の行動が変化しているとの報告もあった。2年連続の高水準の賃上げが企業に変化を促し、「賃上げ原資の確保に向けて、価格設定面の工夫のほか、商品・サービスの高付加価値化、効率化投資、従業員のリスキリング支援、M&A(企業の合併・買収)といった取り組みが積極化してきている」との報告が複数あったという。

ただ、収益の厳しさから賃上げに慎重な企業や他社の動向を踏まえて決める企業も相応にみられ、今後の動きを注意深くみていく必要性も指摘された。

支店長会議後に記者会見した中島健至大阪支店長(理事)は「中小企業にもある程度賃上げの動きが波及していくのではないかという期待感は非常に持っている」と話した。ただ、企業の状況はさまざまであり「数字として昨年より本当に強いものが出てくるのか、予断を持たずに引き続きしっかり調査していきたい」と述べた。

企業の価格転嫁については、人件費比率の高いサービス業、働き方改革への対応を進めている物流や建設業に加え、製造業でも協力企業における労務費上昇分の価格転嫁を認める発注先が増えつつあるとの報告があった。中島大阪支店長は、労務費の価格転嫁に向けた議論が取引先との間でしやすくなっているものの、価格転嫁が「容易にできるようになったという段階には至っていない」と指摘した。

支店長会議では、消費者の節約志向が強まる中で値上げの抑制や一部商品の値下げ、低価格の品ぞろえ強化などがみられるとの報告も複数あった。

<さくらリポート、7地域で判断引き下げ>

日銀が同日発表した地域経済報告(さくらリポート)では、全9地域中7地域の景気判断を引き下げた。一部自動車メーカーの生産停止で、生産は6地域で判断を引き下げ。自動車の生産停止に加え、暖冬で冬物衣料や季節家電の販売が低調で、個人消費は5地域で判断を引き下げた。ただ、能登半島地震があった北陸を除き、景気が緩やかに回復しているとの基調判断は維持された。

自動車生産を巡り、広島鉄也・名古屋支店長は「年明け以降、はっきりと下振れの動きがみられた」とする一方、「その後は生産水準が回復しつつある」との見方を示した。

円安の経済への影響について、中島大阪支店長は、インバウンド需要や輸出企業の収益には追い風になる一方で企業のコストを一段と増やすと話し、プラスとマイナスとで「両論ある」と述べた。関西経済を見る上で、中国経済の減速を懸念点に挙げ「IT関連財中心に輸出が振るわない状況が想定より長引いている」と指摘した。

広島名古屋支店長は、為替円安に関し、輸出企業はプラスの面はある一方で、内需に特化した中小企業や家計ではコストアップ面があるとし、円安の影響について「よく見ていく」と述べた。

岡本宜樹・札幌支店長は円安影響について「インバウンド需要が盛り上がっており、円安の効果を享受している。インバウンド向けの百貨店の売り上げも好調だ」と語った。

(和田崇彦、山口貴也編集:青山敦子、田中志保)

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