社説:歌劇団パワハラ 人権欠く組織、改革急務

 旧弊を一掃し、人権を尊重する組織へと変わらなければ、夢を紡ぐ存在には戻れまい。

 宝塚歌劇団の宙組に所属する女性(25)が昨年に急死した問題で、歌劇団側が上級生らによる女性へのパワーハラスメントを認め、遺族に直接謝罪した。

 ヘアアイロンで額にやけどを負わせた、人格否定のような言葉を浴びせた―など、歌劇団側が認めたパワハラは14項目にわたる。関与したのは上級生ら10人で、遺族側はうち6人から謝罪文を受け取ったという。

 親会社の阪急阪神ホールディングス(HD)と遺族側の交渉は、合意まで約半年を要した。あまりに遅いと言わざるを得ない。

 問題は過重労働に加え、上級生の行きすぎた指導やしきたりが常態化していた閉鎖的な組織風土にある。放置し続けた親会社の責任は極めて重い。当然ながら幕引きではなく、やっと改革への入り口に立っただけだと自覚すべきだ。

 これまで歌劇団側の対応は誠実さを欠き、昨秋に弁護士ら調査チームがまとめた報告書ではパワハラの存在を否定した。当時、専務理事の村上浩爾氏が「(いじめがあったと言うなら)証拠を見せていただきたい」と述べたのは、組織を象徴する高圧さだった。

 方針転換した背景には、公演中止が続き、スポンサー企業との契約更新の期限も迫る中、収益源である歌劇団のステージ事業を正常化したいとの思惑が透ける。

 驚いたのはHD側が会見で、「悪意はなかった」と加害者を擁護するような発言をしたことだ。上級生らの処分はなく、村上氏は謝罪したものの、理事長に昇任したままである。組織としてのパワハラへの認識が、いまだ社会とかけ離れているではないか。

 劇団員の契約や長時間労働についても課題が残る。入団6年目以降は、労働基準法の適用外となる「フリーランス契約」としている。7年目だった女性も稽古などで長時間拘束された。遺族によると亡くなる前1カ月間の時間外労働は277時間に相当するという。

 HDが今後設ける諮問委員会では人選を含め第三者性をしっかり確保し、脱法的な働かせ方や契約関係、人権意識など労働環境を抜本的に見直すことが欠かせない。

 芸能分野では、仕事への熱意を利用して過酷な労働を強いる「やりがい搾取」が指摘される。制作側が弱い立場の演者を従わせる構造の暗部が次々に露見している。業界全体も問われていよう。

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