『ぶっちぎり?!』で“キャラ萌え”ファン続出! 内海紘子が描く“男の友情”が尊い理由とは

内海紘子が監督を務めるTVアニメ『ぶっちぎり?!』の“異色さ”にハマる人が続出している。本作が描くのは『千夜一夜物語』にインスパイアされた現代日本でのヤンキーたちの抗争。だが内海監督ならではの“キャラ萌え”を生み出す手法で、男臭く硬派な従来のヤンキーものとは一味違う『男の友情』が力強く表現されている。

■内海紘子が描くキャラクターはカップリングで応援したくなる

『ぶっちぎり?!』で初めて内海紘子の世界観に触れたファンには馴染みがないかもしれないが、彼女はアニメ界で一大トレンドを巻き起こした『Free!』や、原作の良さを最大限まで引き出したアニメと評される『BANANA FISH』で知られる監督である。アクションシーンやスポーツの動きも目を引くが、それ以上にキャラクターの心情や感情の機微に重きを置いた“いじらしい”演出をするのが特徴だ。

例えば『ぶっちぎり?!』のまほろは、荒仁に対して時にキツイ態度をとる。しかし兄を失った真宝に対しては思うところがある様子。第9話で「真宝くんの気持ち、考えたことある?」とまほろが荒仁に迫るシーンは、まほろが兄という存在を通して世界を見つめているという彼女の内面を巧みに表現していた。

心情がわかるからこそ、推したくなる。ついカップリングで応援したくなったり、二次創作に手を出したくなったり……。こうした女性ファンに刺さる"内海紘子ワールド"のキャラクターは、一体どのようにして出来上がっているのだろうか。

そこで、内海紘子が監督を務めた全作品を追ってきた筆者が、なぜ彼女の作品が女性ファンを虜にするのかを紹介したい。

■徹底したビジュアルへのこだわり

内海監督の徹底したキャラクターの掘り下げ方には、2つのアプローチがある。まず1つ目がビジュアルへの徹底したこだわりだ。監督自身が過去の経歴の中で『けいおん!』など京都アニメーション作品の原画を担当していた経験もあり、監督作『SK∞ エスケーエイト』ではキャラクター原案も務めるなど、視覚からわかるキャラらしさへのこだわりは並々ならぬものがある。

たとえば『BANANA FISH』では、原作の絵の味をアニメーションの絵として落とし込みつつ、服装は基本的にイチから考えることで、アニメならではの見せ方を追求しているという。(※1)原作の主人公のアッシュ・リンクスはTシャツとGパンにジャケットを羽織るシンプルな服装が多く描かれている。しかし、アニメではそれをそのまま再現するのではなく、現代的でスタイリッシュなファッションにアップデート。80年代のファッションから抜け出した、現代版『BANANA FISH』の世界観を見事に完成させた。

こうした視覚的な面白さは、『ぶっちぎり?!』にも存分に発揮されている。青と緑のパッと目を引くポップな色使いがふんだんに使われた魅那斗會とシグマスクワッドの抗争や、チャイナ服の要素を取り入れた荒仁の私服……。他のヤンキーアニメには見られない『ぶっちぎり?!』ならではの世界観に、つい胸をときめかせてしまう。

■視聴者の心をグッと掴む“いじらしい”演出

次に、内海監督のこだわりが光るのが演出だ。『Free!』では、不器用な水泳男子たちが、互いの個性を補い合う姿が、作品の大きな魅力となっている。

主人公の遙は、クールな佇まいの奥に、水泳への熱い想いを秘めている。しかし寡黙な性格ゆえ、自ら物語を動かすタイプではない。そのため内海監督は、“主人公を主人公にする”ことを意識しながら、遙の反応や表情を常にカメラで追いかけることで、彼の心情を丁寧に捉えていったそうだ。(※2)

一方、『ぶっちぎり?!』では、回想シーンで語られる登場人物たちの過去が丁寧に綴られる。一見、表情でストレートに性格がわかりやすいように見えるキャラクターたちが集まっているものの、蓋を開けてみれば、彼らのなかに宿るギャップや意外性を知ることができる。真宝の中に巣食う闇や、幼い荒仁が感じた戦うことから逃げたことへの罪悪感。過去のワンシーンにも一人ひとりの魂が宿っているからこそ、内海監督が紡ぎ出すキャラクターたちは、鮮やかに力強く、観る者の心を掴んで離さない。

最終回を控えた今、改めてキャラクターの“内海紘子らしさ”を紐解いていくと腑に落ちるものがあるのではないだろうか。

ここからは、『ぶっちぎり?!』で人気を集めているキャラクターの魅力を解説していく。

■浅観音真宝

内海紘子の描く“犬系男子の真骨頂”こと真宝……というのは少し言い過ぎかもしれないが、『Free!』の橘真琴を彷彿とさせる、ガタイがよく愛想が良い男子キャラならではの魅力を存分に備えている真宝だ。明るく親しみやすい性格で、作中屈指の良心的な存在の真宝は出てくるだけでホッとする存在だった。後半のエピソードでは、真宝が“強さ”にこだわる理由が明らかになったことで、作品全体の奥行きがグッと増したのではないか。一夜と出会ったことで、親友である荒仁との関係がどんな結末に辿り着くのかも楽しみだ。

■神摩利人

筆者はまほろの気持ちがよくわかる。あれほど色気が爆発している兄がいたら、たまったものではない。内海紘子作品には欠かせない、“色気のある強キャラ”枠と言えるのが摩利人だろう。ふざけているようでいて、本気を出せば圧倒的な強さを誇る、そのギャップにグッときたファンは私だけではないはず。マジンの一夜をも唸らせるほどの実力の持ち主であり、アニメでのバトルシーンの迫力は抜群。摩利人の「アラティン☆」がまだまだ聞きたいので、荒仁にとっては不本意かもしれないが、末長く2人には絡み続けてほしい。

■灯荒仁

「いかついヤンキーにやたらモテる特殊スキル」があるとすれば、荒仁の右に出るものはいないはず。荒仁は内海紘子作品のキャラクターとしては珍しく、喧嘩に弱く女性にモテることばかり考えている、ちょっと頼りない青年だ。しかし、肝心なところでは曲げない芯の強さを持っている。そんな等身大の魅力が光る荒仁だからこそ、『ぶっちぎり?!』の物語の中心人物として求心力を発揮しているのだろう。

■一夜&千夜

平和な日常に突然現れる「マジン」の存在には度肝を抜かれるが、このマジンこそ、本作のカギを握る“最重要人物”と言っても過言ではない。性格も能力も正反対の2人だが、すでに固い友情で結ばれている。スケートボードで繋がる『SK∞ エスケーエイト』のレキとランガのように、正反対の性格ながら“武の道”を通じて互いを高め合ってきた2人。もはやスピンオフを作れそうな背景のある彼らが、マジンとして、荒仁と真宝に憑いている構図も魅力的だ。

いよいよ最終回を迎える『ぶっちぎり?!』。荒仁と真宝は、マジンの一夜と千夜との出会いによって“ぶっちぎり”な強さを手にした。荒仁と真宝、一夜と千夜、そしてそれぞれのキャラクターたちの想いが交錯する中、物語はどんな結末を迎えるのか。

また、最終話の放送日である4月6日には、TOHOシネマズ 池袋にて応援上映の開催も決定しており、ファン投票で選ばれた人気エピソード4話が上映される。ファンにとって見逃せないイベントとなりそうだ。

最終話ではこれまでの伏線が回収され、キャラクターたちの心情や背景がより深く描かれることで、作品世界がさらに広がりを見せるはずだ。ヤンキーたちの青春と千夜一夜が融合した物語は、最終回でどのような形で結実するのか。内海紘子監督の手腕を、最後までその目で確かめてほしい。

参照
※1. https://natalie.mu/comic/pp/bananafish
※2. https://mantan-web.jp/article/20130809dog00m200057000c.html
(文=すなくじら)

© 株式会社blueprint