大手宅配ピザチェーンの人気「パクチー山盛りピザ」をタイ人はどう見るのか 「太っ腹」と「タイでは売れない」評価の理由

※画像は「日本ピザハット」の公式インスタグラム『@pizza_hut_japan』より

2023年3月に期間限定で発売するや大好評だったというのは、宅配ピザチェーン・日本ピザハット(以下・ピザハット)のパクチー3株を使用したピザ『パクチーすぎて草』。

ちょうど発売から1年が経過した今春、4月14日までの期間限定で、同じ商品が復刻登場。昨年発売した『パクチーすぎて草』(Mサイズ・2480円・お持ち帰り価格)に加えて、新たに登場したのがパクチー量を倍増させた新商品『パクチーすぎて草超えて森』(Mサイズ・2980円・お持ち帰り価格)だという。

人気メニューの復活とあってSNS上では、

《箱開ける前から既にパクチー臭がすごい》
《パクチーはケチっちゃダメだよねー》

と再登場を喜ぶ声も多い。しかし、いくら人気商品だったとはいえ、パクチー量を倍増させるとはなんともチャレンジングなメニューである。弊サイトがピザハットに商品開発のきっかけを尋ねると、

「台湾のピザハットでブランドイメージについて消費者調査を実施したところ、”時代遅れ”と思われていることが判明。イメージ変革と商品イノベーションを行なった結果、台湾では”進化し続ける””フレッシュ”という印象が定着したんです。この成功事例を見て、奮起したのが日本のメンバーです」(同社マーケティングディビジョン・フィギギ麗花さん)

とのこと。この台湾での調査を機に日本でも30代前半が主体となる若手メンバーを中心に、新商品開発チームが社内で結成されたという。新商品となる味の候補は100以上のアイデアが出たそうだが、開発段階から「奇抜さ」を念頭に置いていたようだ。

前出のフィギギさんは、その理由を「あえてお客様から賛否両論を起こす“話題性”のある斬新なキャンペーンを展開したかったため」と説明する。

■パクチーが開発中に「どんどん増えていった」ワケ

ピザハットが若手社員を中心に社運を賭けて挑んだ商品開発。話題を呼ぶポイントの着眼点は「SNS映えを意識したビジュアル」「好き嫌いが分かれる食材を使った商品」「数量・期間限定発売」。すべてを兼ね備えた具材として同社が目をつけたのは「パクチー」だったという。

「ふだん脇役のパクチーをあえて山盛りにした商品を作ったら、驚きや面白さがあるかなと。インパクトのあるビジュアルは、SNS投稿で話題性が広がるのではと考えました。ただ、当然、食べ物なのでおいしくないと成立しません。

ソースやトッピングも試行錯誤を繰り返し、最終的にトマトソースとヤンニョムソースをベースに海老をトッピングという組み合わせに。驚きある見た目とおいしい味の両立にはこだわりました」(前出のフィギギさん)

社長に提案すると「やったらええやん!」と大ウケ。その一方で、通常ピザのトッピングには使わない具材であるパクチーを主役に据えた商品完成に至るまで、紆余曲折もあったという。フィギギさんが振り返る。

「ピザのBOXに入れてしまうと、ピザの温度でパクチーが減ったように見えてしまうんです。開発しながらどんどん山盛りに……。昨年発売した商品を開発する段階で、結果的にパクチーを3株も乗せることに(笑)。調達も通常とは違った工程を踏むなど、さまざまな困難を乗り越えて発売に至りました。

ただ、本音を言うと、お客様に受け入れてもらえるかどうか不安だったのも事実です。”食べ物で遊ぶな”といった批判もあるのでは、という懸念もありました」

しかし、消費者の反応は同社の懸念とは真逆の結果に。発売後にネット上を中心に寄せられた好反応の数々に、開発チーム一同、胸をなでおろしたという。

結果的に昨年売り出した、『パクチーすぎて草』は想定の2倍以上売れ、発売期間も延長した。市場の好評を受けたことで今年、「よりパクチスト(パクチー好きの人のこと)に満足いただける商品を」と、パクチー3株から倍盛りとなる6株を使用したパクチーピザの発売に至ったという。

■タイ人は日本人の「パクチー好き」をどう見ているのか

ピザハットが発売するパクチーピザに限らず、日本の飲食店やレシピサイトには、パクチーサラダや、パクチー大盛りのラーメン、たっぷりパクチーが入ったモヒートなど、パクチーまみれになったメニューは多数存在する。そうした“パクチー好きの日本”を、パクチーを使ったメニューが売りであるタイ料理を生んだ国のタイ人は、どのような目で見ているのか。

『世界くらべてみたら』(TBS系)などのテレビの人気番組にも出演し、日本で活動するタイ人タレント・ブンシリさんに、弊サイトが話を聞くと、昨年初登場したピザハットのパクチーピザは「タイのインフルエンサーの間でも話題になった」とのこと。タイ人にとってもインパクトは大きかったようだ。

「タイ人の生活にパクチーは欠かせないものですが、一度にそこまで大量に食べるものではありません。飾りとして上に乗せたり、唐辛子とミキサーにかけてタレにしたりといった使い方で、あくまでも薬味という位置づけ。日本人みたいにサラダとしてそれを丸ごと食べるっていうのはないですね。だから、日本人のパクチーが主体になったメニューにはびっくりします(笑)」(ブンシリさん)

ブンシリさん自身、生のパクチーは「正直、そこまで食べない」という。なぜか。

「高いんですよね。タイ人に欠かせない食材にはパクチーの他に唐辛子もあるけど、優先順位的には唐辛子のほうが欠かせない。パクチーはギリギリなくてもいいかな、みたいな……。だからピザハットさんがあんなにパクチーをてんこ盛りにするのは、太っ腹だなと。生野菜だし、調達も大変だったと思いますよ。

ただ、日本でパクチーメニューに使われるパクチーと、タイで食べるパクチーはちょっと違う気がします。日本で使われるパクチーのほうがクセがなくて柔らかい。僕も日本でパクチー食べ放題のお店に行ったことがありますが、確かに、これならおいしいなと思ったことはあります」(前同)

■タイでパクチーピザは売れるのか?

ピザハットが売り出したパクチーピザ、タイで発売したら売れるのかというと、前出のブンシリさんは「売れないんじゃないですかね。パクチーだったら自分で買ってきて乗せればいいし……」と笑いながらリアルな本音を吐露。

「やっぱり、日本人にとってパクチーは“ちょっと変わったもの”で、パクチーピザも“限定”だからいいんですよね。

でもタイのピザハットには、”北海道チーズ”を使っていることを謳い文句にしているメニューがあるんですよ。北海道っていう地名がついていることで異国感と特別感があって、人気なんです。どれくらい北海道のチーズ使ってるのかはわからないけど(笑)」(前同)

そんなブンシリさんに実際、食べてみたいピザの味を尋ねると、「トムヤムクン味」とのことだった。

タイ人からは「売れない」と評価されるも、日本人には好評なパクチーピザを発売するピザハットに、「草→森ときたら、来年2025年のパクチーピザは大変なことになるのでは?」と聞いてみたところ、「これからも皆様へおいしくて驚きある商品を開発していきたいと思いますので、こうご期待ください!!」とのこと。

来春は、ピザハットから「パクチージャングルピザ」が発売されているのかも。

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