【解説】老朽化が進むJR四国の駅トイレなぜ自治体が整備? くみ取り式のままの駅も… 香川

今回は駅のトイレについて考えます。香川県では、複数の自治体がJR四国の駅のトイレを整備する費用を2024年度の当初予算に盛り込みました。鉄道事業者が維持管理していた駅のトイレを、なぜ自治体が整備するのか?背景を探ります。

東かがわ市のJR引田駅です。併設されているトイレは男女共用で、いまだくみ取り式です。

維持管理を担うJR四国は、「盗難やいたずらがあるため」としてトイレットペーパーを設置していません。

いくつか置いてあるのは、地域住民がボランティアで補充しているもののようです。

(利用者は―)
「汚くて臭かった」
「ペーパーの取り付けもイマイチだったかな。明るくなってほしいですね。暗いのは嫌だから」

そんな中、JR四国は老朽化した引田駅の駅舎を建て替える方針を示しました。しかし、その構想の中にトイレはありませんでした。

(東かがわ市/上村一郎 市長)
「JRとして、お手洗いをもう造りませんと。ただ自治体が全額負担でお手洗いを造るのであれば、可能な限りの協力をしますという形。自治体として引田駅にトイレを設置するのが望ましいだろうと」

東かがわ市は、2024年度の当初予算にトイレ整備の負担金3300万円を計上。男性用、女性用、多目的を備えたトイレを2025年3月までに造る計画です。

(東かがわ市/上村一郎 市長)
「観光客の皆さまを含めた公衆トイレという位置付けになってくる。四国・香川県・東かがわ市には、JR四国の鉄道は必須の存在。協力することは必須」

(記者リポート)
「三豊市のJR高瀬駅です。駅舎はかなり老朽化が進んでいる印象です。併設されているトイレも、くみ取り式の便器が残るなど、かなり古くなっています」

この駅舎もJR四国が建て替える計画が進んでいますが、トイレは三豊市が整備して維持管理も担うことになります。

三豊市は2024年度の当初予算に設計費用約270万円を計上、2025年度の予算案に工事費を盛り込む方針です。

香川県にあるJR四国の48駅のうちトイレがあるのは30駅。そのうち12駅がくみ取り式のままです。しかし、JR四国はこれを「直す」方針ではありません。

(JR四国/西牧世博 社長)
「トイレの改修に投資する資金も乏しいということなんで、できたら撤去したいですね」

JR四国は、ここ5年で4つの駅のトイレを撤去しました。

(JR四国/西牧世博 社長)
「そうは言っても利用が一定数ある駅については、何らかの形で、私どもだけでなくて自治体にもご負担いただいて、トイレをきれいにしていきたい」

高松市の鬼無駅のトイレも、自治体のお金で生まれ変わります。現在は男女共用のくみ取り式で、トイレットペーパーも置いてありません。

ここを整備するのは高松市……ではなく香川県です。

(香川県 交通政策課/十川裕史 課長)
「県で整備することの検討(理由)の一つとしては、県立高校の最寄り駅である駅で、なかなか高校生が利用する上でも厳しいという声もあった。そういった状況を県としても看過できないと考えまして」

(高校生は―)
「ぼっとんトイレみたいな、使いにくいトイレ」
「我慢する人は(使わずに)全然我慢するくらいのトイレだと思います」

県は、2024年度の当初予算にトイレの整備費、約8000万円を盛り込みました。男女別と多目的を備えた上、アートの要素を取り入れたトイレを2025年度中に完成させる方針です。

(香川県 交通政策課/十川裕史 課長)
「われわれの思いとしては、鉄道事業者あるいは、地元市町とかで必要に応じて整備をしていただけたらというところはあるんですが、県としてはモデルとなるような駅トイレの整備をさせていただいて、その取り組みが事業者とか市町に広がっていけばいいなと」

現在、香川県内にあるJR四国の駅のうち、6駅のトイレは自治体が維持管理を担っています。

JR四国の西牧社長が「無人駅のトイレは原則撤去したい」と明言する中で、今後ますます駅のトイレは「自治体が管理するか」「撤去するか」の2択を迫られることになりそうです。

その線引きはどこにあるのでしょうか?

(運輸総合研究所/金山洋一 主席研究員)
「地方ではトイレどころか、廃線の議論も起こっているわけです。ちゃんとしたトイレをつけたけど、経営が悪くなってその路線全体がなくなったら元も子もないわけですから、(JRは)ぎりぎりのところで事業を行っていると思う」

公共交通に詳しい運輸総合研究所の金山洋一主席研究員がポイントにあげるのは、「JR四国の経営状況」と「設備投資の優先順位」です。

(JR四国/西牧世博 社長)
「駅のトイレは、基本的には事業者である私どもの維持管理の範囲だと思っていますけども、私どものご利用のお客様の利用の割合が少なくなってきて、(トイレの)維持管理が苦しくなってきた」

JR四国の鉄道事業は1987年に国鉄分割民営化で発足して以降、赤字が続いています。鉄道事業者にとって最優先事項である「安全輸送」を守るため、駅トイレの維持管理に十分な投資ができなくなっていきます。

(運輸総合研究所/金山洋一 主席研究員)
「民か官かということよりも、民でできることは民で、民でできないところは官でやる『べき』という議論ではなくて、官が重要性に鑑みて必要があれば措置をすると」

大阪・関西万博や瀬戸内国際芸術祭を2025年に控え、トイレの洋式化は外国人観光客の受け入れの面でも重要です。

ただ、自治体の予算にも限りはありますので改修の必要性を判断した上で、駅を利用しない人にも理解してもらえるような説明が求められます。

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