難病・表皮水疱症。1歳ですべてのつめが抜け落ち、ショックで涙が止まらなかったことも。不安はたくさんあるけれど、お友だちと遊ぶ経験もさせてあげたい【医師監修】

写真は1歳のときの美羽ちゃん。

鈴木仁美さん(35歳)には2人の子どもがいます。第2子の美羽ちゃん(2歳11カ月)は、生後1カ月のときに、難病の表皮水疱症と診断されました。表皮水疱症は遺伝性の皮膚疾患で、欧米では、表皮水疱症のある子を、皮膚のもろさを蝶の羽にたとえて、バタフライ・チルドレン(触れると壊れる子どもたち)と呼ぶこともあります。
美羽ちゃんの症状と成長について、仁美さんに聞きました。
全3回インタビューの3回目です。

抱っこの刺激でも水疱ができたり、ただれたりする「表皮水疱症」。常に赤い傷だらけの娘をどうやって育てたらいいかわからない・・・【医師監修】

「つめの離脱」と聞いていたけれど、1歳ですべてのつめが抜け落ちた

つめがすべて抜け落ちた美羽ちゃんの手。

表皮水疱症はまれな病気で、現代の医療では根本的な治療法がなく、対症療法が中心です。皮膚の構造成分であるタンパク遺伝子に変異があるため、子どもを抱き上げるなどの動作でも皮膚に刺激を与えてしまい、水疱やびらんができます。

「生後1カ月で診断されたとき、医師からは、つめがはがれ落ちやすいこと。手足の指同士が癒着しやすいことなどが告げられました。つめは力が加わりやすく、皮膚よりもはがれやすいようです。

つめが無くなってしまう、ということにすごく驚きましたし、つめがなくても生活ができるのだろうかとも思いました。
美羽は1歳のときに、すべてのつめが抜け落ちました。最初はショックで涙が止まりませんでした。
でもつめがあるとひっかいて、自分で自分の皮膚を傷つけてしまいます。ひっかいた傷から水疱ができたり、ただれたりします。そのため皮膚を傷つける心配が減ったと思うようにしました」(仁美さん)

医師からは表皮水疱症は、遺伝性の皮膚疾患という説明もありました。

「遺伝性と言われたのですが、私も夫もまったく心当たりがなく『なぜ? 美羽だけが?』という思いでいっぱいでした

そして表皮水疱症は、根本的な治療法はなく、対症療法が中心です。そのため症状は少しずつ進行しています」(仁美さん)

いくつかの型がある表皮水疱症の中で、美羽ちゃんは大人になっても症状の改善が見られずに、重症化しやすい劣性の栄養障害型です。劣性は、大学病院でわかりました。

「月に1回、NICU(新生児集中治療室)に入院していた総合病院に通い、身体測定をしたり、半年に1回血液検査をして数値に異常がないか診てもらっています。また3カ月に1回、大学病院に行って専門医に診てもらっています。

1歳になって、出生直後から症状が出ていて、いちばん弱い部分の右足の親指と人さし指が癒着して、くっついてしまいました。指が癒着しないように、保湿剤を念入りに塗ったりして注意していたのですが、指の癒着を防ぐのは難しいようです。
最近は、皮膚がかたくなって手の指などもまっすぐ伸びなくなってきました。
目にもびらんができると、痛くて目が開けられません。丸1日目を閉じて生活することもあります。
むし歯はないのですが口のまわりや口腔内もかたくなってきて、口を大きく開けられません」(仁美さん)

悪化すると手や足の指が癒着したり、かたい棒のようになってしまうのも表皮水疱症の特徴です。

1歳2カ月ごろからつかまり立ちを始めたけれど、自立歩行ができない

最近の美羽ちゃんは、つかまり立ちでママの料理の手伝いをしてくれるように。

美羽ちゃんは、おしゃべりが上手です。ママ、パパ、お兄ちゃんと毎日、楽しく会話をしています。

「言葉の発達は早いほうでした。最近は、おままごとや人形遊びに夢中で、『ママ~、カレーできたよ』など、よく話しています。私のまねをよくして、お料理を作るなどお手伝いもしてくれます。

口の中や舌にも水疱やびらんができるので、離乳食で10倍がゆを与え始めたのは1歳になってからです。今は、野菜などはこまかく刻むと食べられます。パンやバナナも大好きです。バナナは、少し皮をむいてあげると、後は自分で皮をむいて食べています」(仁美さん)

運動発達は、1歳1カ月ごろにおすわりを。1歳2カ月ごろからつかまり立ちを始めました。でも、その先がなかなか進みません。

「美羽はまだ1人で歩くことができません。何かにつかまって歩くことはできるので、移動するときは椅子を押しながら、移動しています。足にも包帯を巻いているので歩きづらいのかもしれませんし、足の裏の形成が十分でないのかもしれません。

美羽は、かなり慎重なタイプです。生まれてすぐに入院して、ずっと治療を続けているため警戒心が強くなったのかもしれません。そうしたことが歩行の自立に影響しているのかな?とも思っています」(仁美さん)

心配はあるけれど、お友だちと遊ぶ経験をさせてあげたい

体の場所によって、皮膚の強さが異なる。美羽ちゃんが最も弱いのは、右足の指先。

美羽ちゃんは、もうすぐ3歳です。2024年4月からは、医療療育センターに週2回通う予定です。

「同じ年ごろの子が当たり前にしている経験を美羽にもさせてあげたいと思っています。だから『幼稚園に入園させたい』と思いました。そこで、うちの近くで通える幼稚園はないか探したのですが、なかなか難しくて。1園だけ、私が常につき添えるならば、来年度以降入園を考えてくれるという園がありました。ただ、その園も自立歩行ができないと難しいようでした。

そのため夫と話し合い4月からは医療療育センターに週2回通うことにしました。医療療育センターでは、リハビリのほか、音楽遊びなどの活動もあるようです」(仁美さん)

集団生活にはけがの心配があります。美羽ちゃんは、ぶつかったり、転んだりしてけがをすると、症状が悪化してしまいます。仁美さんも心配していた時期がありました。

「以前は、けがをさせることが怖くて、幼稚園などの集団生活は難しいと決めつけていました。幼稚園側が受け入れは難しいと言うのも、けがのリスクを考えてのことです。

でもけがのリスクとお友だちと遊んだりする経験を天秤にかけたとき、お友だちと遊んだりする経験をさせてあげたいと思うようになったんです。また、お友だちからたくさんの刺激を受けて成長してほしいと思っています」(仁美さん)

仁美さんは、夫とも美羽ちゃんの将来について、いろいろ話し合っています。

「夫は『この病気は見た目ですぐにわかるから、この先、つらい思いをすることもあるだろう』と言います。娘はもうすぐ3歳ですが、すでにそうした雰囲気を感じています。でも、親切な人もいっぱいいるので、悲観しないで!と美羽には伝えていこうと思っています。

また、娘がやりたいことはチャレンジさせあげよう。娘の可能性を広げてあげようと夫と話しています」(仁美さん)

【玉井先生から】ホームケアを通した親子のスキンシップが、子どもの優しい心を育む

表皮水疱症の子どもをもつお母さんやお父さんは、少しでもよくなって欲しいという心からの願いを込めて、毎日数時間かけて皮膚の処置を続けておられます。その結果、表皮水疱症の子どもたちは、正常な皮膚を持つ子どもたちと比べて圧倒的な量の、スキンシップという親の愛情を受け続けます。親の愛情を込めたスキンシップは、子どもの脳に、他人を受け入れ思いやるという、人として最も大切な「優しい心」を育んでいきます。私がこれまで出会った表皮水疱症の患者さんは皆、驚くほど優しい心の持ち主ばかりです。

お話・写真提供/鈴木仁美さん 監修/玉井克人先生 協力/NPO法人表皮水疱症友の会 DebRA Japan 取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部

息子は生まれてきてすぐピエロと呼ばれた。皮膚の難病「道化師様魚鱗癬」を抱える息子とともに生きる【体験談・医師監修】

仁美さんは、子育てサークルに入っていて、サークルのメンバーと子連れで公園に行くこともあります。「外に連れて行くと、心配して声をかけてくれる人もいます。表皮水疱症という病気は、知らない人が多いのですが、1人でも多くの人に、この病気のことを知ってほしい」と言います。仁美さんは表皮水疱症への理解が広がり、受け入れられる社会をめざしています。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

NPO法人表皮水疱症友の会DebRA Japan

監修/玉井克人先生(たまいかつと)

PROFILE
大阪大学大学院医学系研究科招聘教授。1986年弘前大学医学部卒。90年同大学大学院医学研究科博士課程修了。弘前大学医学部皮膚科助手などを経て、91年米国ジェファーソン医科大学皮膚科留学。2003年大阪大学大学院医学系研究科遺伝子治療学助教授、04年同准教授。10年同研究科再生誘導医学寄附講座寄附講座教授。23年10月より現職。専門は再生医学、遺伝子治療学、皮膚科学。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年2月の情報であり、現在と異なる場合があります。

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