インタビュー:ドル/円、現在のレンジ上抜けなら為替介入の見通し=山崎元財務官

Tetsushi Kajimoto Takahiko Wada

[東京 4日 ロイター] - 元財務官の山崎達雄・国際医療福祉大学特任教授は4日、ロイターのインタビューに応じ、ドル/円が現在のレンジ上限を明確に上抜ければ、政府・日銀が円買い介入に踏み切るとの見通しを示した。

日銀のマイナス金利解除後も円安基調が続いていることに関しては、解除時の植田和男総裁の発言が投機筋には「見切り発車」と受け取られ、円売りを誘発したと指摘。日銀は年内に追加利上げの可能性があるなどと発信していくべきだと語った。

一方で、日米欧の中央銀行の政策スタンスが変化し、日本の経常黒字も拡大する見込みのため、円安トレンドは持続しないとの見方も示した。

ドル/円は3月27日に一時151円97銭と1990年以来の高値を付けたが、足元では介入警戒感から狭いレンジ内での推移が続いている。山崎氏は、神田真人財務官が「円安の背景に投機的な動きがあることは明らか」と述べるなど、政府が警戒トーンを強めていることに触れ「介入の必要性があるかどうかというギリギリのところに来ている」と指摘した。

ドル/円はひとたびレンジ上限の152円ちょうどを上抜ければオプションやストップロスを巻き込んで「けっこう上に行くと思う」と述べ、「上にブレイクしたときに当局の介入のチャンスが一番訪れる」と話した。「上に行って何もやらなければ、クレディビリティに関わる」とも語った。

山崎氏は、近隣窮乏策である円売り介入に比べれば、円買い介入は「相手国の同意が得やすい」と述べた。山崎氏は2003年から04年にかけて財務省の為替市場課長として大規模な円売り介入に携わった。神田財務官は当時、山崎氏を補佐する立場だった。

<植田日銀総裁の発言が円売りを誘発>

日銀は3月19日にマイナス金利解除を決めたが、外為市場では円安が一段と進んだ。山崎氏は、日銀が17年ぶりの利上げに踏み切ったにもかかわらず円安が再び強まった背景として、植田日銀総裁の情報発信を挙げた。

植田総裁が3月会合の記者会見で物価目標の持続的・安定的な実現の確率が「まだ100%ではない」などと述べたことが「見切り発車」での政策修正との印象を与え、「当面は緩和的な環境が続く」としたことが「市場金利をゼロ%近傍から上げることはしない」と強く市場参加者に思わせた結果、マイナス金利が解除されれば円ショートをいったん手仕舞うはずだった投機筋が円ショートを増やしたと説明した。

日銀の政策修正後、株価は高値圏を保ち、長期金利も安定しているが「為替を犠牲にして成り立っている」と述べた。

山崎氏は植田総裁の情報発信について、年内には追加利上げの可能性があると明言するなど、2%物価目標を目指す中央銀行としての「あるべき姿」を示していくことが必要だと述べた。

<円安は続かず、130円まで円高進行も>

もっとも、円を取り巻く環境は変化していると山崎氏は言う。日銀が金融政策の正常化に踏み出した一方で、米連邦準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)の次の一手は利下げだとみられている。「金利差に着目して言えば、これまで続いた円安トレンドは終わる」と述べた。

さらに、日本の経常黒字の拡大見通しを踏まえれば「140円、場合によっては130円まで行くのが本来の実力に合ったドル/円相場だ」と指摘した。トランプ氏が米大統領に返り咲けば、トランプ氏はドル高に不満を持っているとみられることから、より円高に行きやすくなるとした。

山崎氏は「円安は日本経済にとって悪いことではない」と指摘。円安の恩恵で企業収益が良好で税収増にもつながっているとした。ただ、実力より弱い円は長続きしないと述べた。

(梶本哲史、和田崇彦)

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