公費解体の要件緩和 輪島市、全相続人の同意不要 坂口市長方針

公費解体により撤去される建物=輪島市河井町

  ●珠洲市も前向きに検討

 地震で全半壊した建物を市町が所有者に代わって解体・撤去する公費解体について、坂口茂輪島市長は4日、北國新聞社の取材に対し、手続きに必要な要件を緩和する方針を示した。対象家屋の所有者が亡くなっている場合、相続の権利を持つ人全員の同意が必要となるが、同意を集められず、申請できない被災者が続出。申請者1人が宣誓書を提出すれば解体を認める仕組みとすることで作業を迅速化したい考えで、珠洲市も導入を前向きに検討している。

 公費解体では、所有者が既に死亡している建物で、名義が相続人に変更されていない場合、相続人全員の同意が必要となる。権利を持つ可能性のある全ての人の意思を確認するためで、同意書には実印と印鑑証明が必要となる。

 しかし、所有者が死亡してから時間が経過するほど相続の権利を持つ対象者は増え、同意書を準備するハードルは高くなる。石川県司法書士会によると、全国的に能登のような過疎地では所有者の死亡後も名義を変更しない未登記が多く、公費解体の申請が進まない一因となっている。

 輪島市によると、公費解体の申請に関しては今月1~3日に404件の相談が寄せられた。このうち266件は受理したが、残る138件は相続人の問題や必要書類の不足で受理できなかったという。

 これを受けて市は、相続人全員の同意を集めるのが難しい場合、「問題が生じても申請者が責任を持って対応する」との宣誓書を提出すれば公費解体を実施できる仕組みを採用。坂口市長は「宣誓書を導入することで復旧・復興を速く進めたい」と話した。

 宣誓書方式は、環境省の公費解体マニュアルにも規定されている。奥能登4市町では、珠洲市が2次被害の恐れがある建物を対象に、相続人全員の同意がなくても解体を認めているが、それ以外の家屋についても「採用したい思いはある」(担当者)として県や環境省と調整を進める。

  ●能登町、穴水町は慎重姿勢

 一方、能登と穴水の両町は宣誓書方式に慎重姿勢を崩さない。申請者1人が宣誓書を提出しても、後に相続の権利を持つ別の人とのトラブルが発生し、行政が巻き込まれるケースも想定されるためだ。

 穴水では、3月末までに寄せられた公費解体の相談885件のうち半数程度で書類に不備が見つかり、その多くに相続人の同意書が添付されていなかった。しかし、町の担当者は「個人の権利が絡む事案であり、慎重に進めざるを得ない」と話し、事後トラブルに警戒感をにじませた。

  ●県司法書士会「柔軟に対応を」

 県司法書士会によると、能登半島地震の被災者から寄せられる電話相談は、半数以上が公費解体に関する内容となっている。竹田朋匡(ともただ)広報部長は「被災者のために柔軟に対応するよう、輪島市以外の自治体に要望していく」と話した。

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