伊藤沙莉『虎に翼』初回視聴率16%超に民放局はお手上げ 『ちいかわ』にもつながる「朝ドラが見られ続ける」理由

猪爪寅子役・伊藤沙莉とその両親役の石田ゆり子、岡部たかし ※画像は朝ドラ「虎に翼」公式X(旧ツイッター)『@asadora_nhk』より

4月1日はエイプリルフール。1年で唯一ウソをついても良いとされる日だ。そんな日に初回放送があったのは、女優・伊藤沙莉(29)が主演を務めるNHK連続テレビ小説『虎に翼』。翌日、報じられた世帯視聴率は、民放局のドラマから考えれば驚異的な高視聴率の16.4%だった(ビデオリサーチ調べ/関東地区・以下同)。

テレビ離れが叫ばれるこの時代、「まさか!」と声が出そうな高い数字だが、テレビ局員から聞こえてくるのは「そうでしょう」の声ばかり。なぜ、朝ドラはここまで人を惹きつけるのかーー。

民放キー局の社員が話す。

「まあ、さすがですね……という印象。前作の趣里さん(33)主演の『ブギウギ』、神木隆之介さん(30)が植物学者役を演じた前々作の『らんまん』も初回視聴率がそれぞれ16.1%と16.5%でしたからね。

しかし、いつまでたっても朝ドラは視聴率が落ちないですね。8時から始まる朝の情報番組は、朝ドラの放送時間である最初の15分を捨てている状態ですよ」

視聴率男の異名を持つ木村拓哉(51)が、2023年に主演を務めた『風間公親−教場0−』(フジテレビ系、23年4月期)ですら全11話の平均視聴率は9.8%。今や、視聴率2桁を奪取できれば、「ヒットドラマ」と呼んでも差し支えないこの時代。なぜ、朝ドラは高い視聴率をキープし続けられるのか――。テレビ朝日で情報・報道番組のプロデューサーを長年務めた鎮目博道氏に“朝ドラの強さ”を聞いた。

「朝ドラはとにかく昔から強いんです。僕もかつて、裏番組である『スーパーモーニング』(1993年〜2011年)の制作に加わっていたのですが、朝ドラの時間は諦めていましたね。その代わり、朝ドラの終わりのタイミングにその日一番面白い企画を持ってくるんです。ドラマ終わりでチャンネルを変える視聴者を少しでも獲得しようという番組構成をしていましたね」(鎮目氏)

■キー局Pが指摘する「朝ドラが見られ続ける理由」

民放局は完全に白旗を上げるというNHK朝ドラ。前出の鎮目氏は「高視聴率の理由は2つある」と話す。

「1つは視聴習慣が根付いているから。やはり、長年続いている番組というのは固定ファンを獲得します。長年、朝ドラを見続けている人の中には、“朝ドラを見ないと1日が始まらない”という人もいるでしょう。出勤前のアラート代わりに朝ドラを見るという人だっていると思います。こうなると番組離れはなかなか起きません」(鎮目氏)

朝ドラの変わらぬ高視聴率の2つ目の理由として鎮目氏が挙げるのは、番組放送時間の短さだ。

「15分とドラマとしては非常に短い放送時間。それでも、その中で山場を作り、視聴者に翌日も見たいと思わせる必要がある。すると、番組のテンポも必然的に良くなるのです」(前同)

また、15分という短い放送時間は、「映像業界におけるヒットの法則を先取りしていた」と鎮目氏は指摘する。

「今、中国では動画配信サービスで1分間の超ショートドラマが流行っています。日本でも朝の情報番組『めざましテレビ』(フジテレビ系)で、アニメ『ちいかわ』が放送されてヒットしているでしょう。『ちいかわ』も放送時間が1分半と、とにかく短い。忙しい現代人は1時間もテレビの前に座っていられないですし、短い放送時間でテンポが良い物語というのは映像業界におけるヒットの条件になっているのです」(同)

■NHKが「朝に強くなった」のはいつからか

固定ファンの獲得と放送時間の短さを武器に、朝のテレビで不動の地位を築くNHK朝ドラ。第1作目となる北沢彪主演の『娘と私』の放送が始まったのは、1961年のこと。60年以上前から続く番組は、放送開始当初から、時代を先取りしていたというわけだ。

そんな朝ドラの放送開始時間が8時15分から8時へと変更されたのは、2010年。松下奈緒(39)が主演した『ゲゲゲの女房』からだ。

「放送時間変更により、NHKの朝の番組表はより強固なラインナップになりました。8時から始まる朝ドラで、他局の情報番組を蹴散らし、『あさイチ』へとつなげる。『あさイチ』の冒頭でも朝ドラの内容を受けたトークを展開し、視聴者を惹きつけるという仕組みです。情報番組を扱う民放としては非常にキツいですね」(前出の鎮目氏)

現在放送されている朝ドラのタイトル『虎に翼』は、中国の思想家・韓非子の言葉で「強い上にもさらに強さが加わる」という意味。演技派として高く評価される伊藤沙莉主演の『虎に翼』を経て、さらに朝ドラは強くなるのかも。

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