【社説】自民党の裏金処分 国民不在、あまりに見苦しい

 政権与党として政治責任を取ったと言えるわけがない。

 きのう自民党が派閥の政治資金パーティー裏金事件で、党紀委員会を開き、安倍派と二階派の衆参両議員ら39人の処分を決めた。

 組織的な裏金づくりが発覚した安倍派の幹部は、処分に差が出た。派閥の衆参トップの塩谷立、世耕弘成両氏は、党内規で除名の次に重い離党勧告に、事務総長を経験した下村博文、西村康稔両氏は党員資格停止1年とした。一方、萩生田光一氏は、政治資金収支報告書への不記載額が飛び抜けて多いにもかかわらず、党役職停止にとどめた。

 安倍派が2022年、派閥のパーティー券販売ノルマの超過分を議員に還流させる慣行を復活させた点を最も重くみたようだ。しかし、幹部は一様に国会の政治倫理審査会で「知らない」「関わっていない」と答弁し、誰が決めたかは解明されていない。

 さらに裏金づくりが「20年以上前」に始まったとされ、当時会長だった森喜朗元首相の関わりに疑念は残る。責任の所在を明確にせず、よくも処分を判断できたものだ。お茶を濁してやり過ごしたい党全体の本音が透ける。

 還流分を収支報告書に記載しなかった議員らは85人いる。だが、処分対象は派閥幹部を除いて不記載額が500万円以上に限り、党役職停止や戒告とした。不可解な線引きは到底、理解できない。

 そもそも裏金づくりは1円たりとも許されない。加えて多くの使途が不明だ。政治活動ではなく私的に使えば脱税であり、選挙応援に充てれば公職選挙法に抵触しかねない。世間の常識とずれた実態が疑われ、それでも調査を尽くさない党の体質に国民が憤っていると分かっていない。

 党内の政局や人間関係を優先した甘い判断も目立つ。象徴は二階俊博元幹事長を処分の対象外としたことだ。二階氏は二階派の元会計責任者と自らの秘書が立件されたのを理由に、次期衆院選に立候補しない考えを表明した。党は「政治的責任を取った」としたが、認識違いも甚だしい。不記載額は3526万円と最も多く、幹事長時代の巨額の政策活動費を含めて説明責任を果たしていない。

 昨秋に裏金事件が発覚して以降、自民党は国民と向き合わず、政権維持や党内の調整を優先した姿勢を続ける。裏金の調査も政倫審開催も、野党から追及を受けて、しぶしぶ動いたに過ぎない。

 処分を巡る過程は、むしろ政治不信をより深めた。岸田派の元会計責任者が立件されたが、岸田文雄総裁への処分はなかった。トップとして政治責任をどう果たすのか。岸田氏は処分決定を受け、政治資金規正法改正など「政治改革へ全力を尽くす」とし、区切りにしたい考えがにじんだ。しかし、実態解明を放置したままでは絵空事に終わる。

 離党勧告を受けた塩谷氏は事実に基づいておらず不当と訴え、岸田氏の処分を求めた。あまりに内向きで見苦しい党の姿そのものだ。これで国民の厳しい見方が変わると思うのなら甘過ぎる。

© 株式会社中国新聞社