【4月5日付社説】自民の裏金事件/厳正な処分に程遠い内容だ

 資金の還流がいつ始まり、誰が主導し、何に使われたのか。実態が全く解明されていない段階での拙速な判断で、処分の基準も曖昧だ。これで事件を幕引きにすることは容認できない。

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で、党の党規委員会が関係議員39人の処分を決めた。安倍派(清和政策研究会)の衆院側、参院側でトップだった塩谷立、世耕弘成両氏に「除名」に次いで重い離党勧告、同派幹部を務めた下村博文、西村康稔両氏らには党員資格停止1年を科した。

 安倍派「5人衆」の松野博一前官房長官、萩生田光一前政調会長や、二階派幹部の林幹雄氏らは党役職停止1年となった。

 政治資金収支報告書への不記載額の程度、派閥幹部などの立場に応じて処分の軽重が決まった。党総裁の岸田文雄首相は、裏金問題に対する厳しい世論を踏まえ、安倍派幹部などは当初の想定より重い処分を判断したとされる。

 しかし5年間の不記載額が1千万円未満の議員の多くは、今後の議員活動に大きな影響がない「戒告」、500万円未満の45人は処分の対象にならなかった。

 500万円未満であっても、国民の生活感覚では「処分なし」の判断は到底理解されないだろう。全ての関係議員が国民の政治への信頼を損ねた当事者であり、処分されなければならない。

 岸田総裁の処分は見送られた。裏金事件で国会の混乱や停滞を招いた責任は極めて重く、党内でも反発が広がっている。これでは「保身のため」との批判は免れずトップの対応として疑問だ。

 二階派の二階俊博元幹事長も次期衆院選への不出馬を表明したことで処分対象から除外された。

 二階派の元会計責任者は東京地検特捜部に在宅起訴され、二階氏自身の不記載額は3500万円を超える。自らの出処進退で政治責任を取ったとしても、厳正に処分すべきだ。

 関係議員を処分するのは当然として、真相を究明し、政治とカネの問題の根絶を図るのが、与党としての最低限の責務だ。衆参の政治倫理審査会などでは全く説明責任が果たされなかった。

 野党側は、偽証罪にも問われる証人喚問を自民に求めている。清和会の資金還流は1990年代後半ごろに始まった疑いが持たれており、派閥会長を務めていた森喜朗元首相からも国会で事情を聴く必要があるとしている。

 自民が政治とカネの問題に本気で取り組み、信頼回復を図るならば、証人喚問に応じるべきだ。

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