【裏金事件】処分で幕引き許されず(4月5日)

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件は、党内処分によって幕引きとはいかない。真相が結局やぶの中では疑惑は晴れず、本題の政治改革は政治とカネ問題の核心に迫れない。自民党と岸田文雄首相に本気でやり切る覚悟はあるのか、一段と厳しく問われる局面にある。

 安倍派元座長の塩谷立氏、参院側会長だった世耕弘成氏は、今回の処分で最も重い離党勧告が科された。派閥の幹部を務めた下村博文、西村康稔両氏は党員資格停止1年、高木毅氏は党員資格停止6カ月とされた。元事務総長の松野博一氏、元政調会長の萩生田光一氏は多額の不記載がありながら党役職停止1年で折り合いを付けた。他の衆参議員は不記載額の多寡で線引きされたことに疑問や不満が噴出しているという。

 党執行部の調整がもつれたのは、裏金問題の実態解明に至らぬ中で処分を先行させた結果に他ならない。党総裁選への思惑も取り沙汰された内向きな舞台回しに、政治不信をまん延させた自覚と責任は感じられなかった。

 「不記載を知らなかった」「額のみで処分を区分けるのは公平性に欠ける」といった事情や理屈は党内でしか通じず、結果責任を常に負う一般社会とは隔たりがある。党総裁としてのけじめを付けない岸田首相に対し、民間企業の経営トップとの落差を指摘する声はやまない。処分によっても国民の不信感は尽きず、むしろ深める事態を招いた責任は首相自身にあると受け止めるべきだ。

 政治資金規正法改正を巡る議論が衆参両院で本格的に始まろうとしている。処分の根拠や是非、首相の責任追及で不毛の応酬が再び続き、肝心の改革論議が迷走する懸念は拭えない。岸田首相は主導力や党内統治力を問われている場合ではもはやない。国民は、国会や党内論理とは無縁のところで動静を見ていると肝に銘じ、政治改革への決意と信念を形で示してもらいたい。

 政治資金規正法は、国民の監視と批判の下で政治活動が行われるよう報告書への収支記載を規定し、民主政治の健全な発達をうたう。厳しい監視と批判は今、政治改革にこそ向けねばならないと県民、国民は胸に刻み、国会の動きを注視していく必要があるだろう。(五十嵐稔)

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