主人公のはずなのに…気づけばラスボスみたいなポジションになった漫画やアニメのキャラたち

『進撃の巨人』~クロニクル~(通常版) [DVD](ポニーキャニオン)

正義の主人公が悪のラスボスを倒すのは王道だが、その道を辿らない漫画も数多い。敵が“悪”とは言い切れなかったり、互いに和解するなどパターンはさまざまだが、なかには「主人公がラスボスになる」という驚きの展開を見せる作品もある。

感情移入していたはずの主人公が敵として大暴れする……読者は混乱しながらも、先が気になって読んでしまうのだ。そこで今回は、主人公がラスボスのような存在となった名作漫画を紹介していく。

■世界の敵となった真意…『進撃の巨人』エレン・イェーガー

まずは、諫山創氏が手掛ける大ヒット漫画『進撃の巨人』(講談社)の主人公、エレン・イェーガーだ。母親を食べた巨人への憎悪と、底知れぬ自由への渇望を抱いたエレンは、調査兵団として巨人と激しい戦いをくり広げる。狂気を抱えながらも普通の青年らしい一面を持っており、共感できる主人公だ。

だが、物語の終盤に差し掛かる「マーレ編」からエレンは大きく変わる。故郷であるパラディ島を狙う世界そのものへ敵意を持つようになり、人類を根絶やしにする「地鳴らし」を画策。ついにはアルミンやミカサたちをも拒絶し、「地鳴らし」でパラディ島を除く人類の8割を虐殺する大惨事を引き起こしてしまう。

最終盤ではすべてのキャラがエレンを止めるために動いていたほどで、その様はまさにラスボスにふさわしい。

主人公の壮絶な変貌に読者も大いに戸惑っただろう。しかし最終話で「島を狙う人類を駆逐して仲間を守りたい」「自分を倒したアルミンたちが英雄視されれば、パラディ島は狙われない」といった真意が判明する。エレンは大切な人たちのために悪役を担ったのだ。

同じ最終話では、以前のようにアルミンと会話するエレンも見られた。ラスボスから主人公に戻ったその姿に、安堵と悲哀を感じた人もいるのではないだろうか。

■強すぎて敵がチャレンジャー!?『HELLSING』アーカード

次は、20世紀のイギリスを舞台とした平野耕太氏の吸血鬼バトル漫画『HELLSING』(少年画報社)のアーカードを紹介しよう。

吸血鬼による凄惨な事件に対処する“ヘルシング機関”に所属するアーカードは、自身も不死身の吸血鬼。吸血鬼が吸血鬼を狩るバトル展開を、平野氏のセンスあふれる言い回しや作画で魅せてくれるのが『HELLSING』の魅力だ。

アーカードら“ヘルシング機関”が吸血鬼やその裏に潜む巨大な組織と戦う姿を描いた本作だが、なんといっても主人公のアーカードがすさまじく強い。桁違いの怪力や特殊能力の数々、そして何をされてもすぐに再生する不死身の体は、あらゆる敵を寄せつけない。作中を通して苦戦らしい苦戦をまるでしていないほどだ。

そのせいか終盤では「アーカードをどう倒すか?」が注目され、物語上の敵はむしろ化け物と戦う挑戦者のようになっていった。“化け物を倒すのは人間だ”というアーカードの思想も相まって、勇者を迎え撃つ魔王に近い存在になったのだ。

バトル漫画の主人公は、苦戦や敗北を重ねて成長するイメージが根強い。最初から最強として君臨するアーカードはその正反対。その在り方から、ファンの間では「アーカードこそラスボス」なんて声も少なくない。

■思想がラスボスそのもの…『DEATH NOTE』夜神月

名前を書かれた人間が死ぬ“デスノート”をめぐる、原作:大場つぐみ氏、作画:小畑健氏によるサスペンス漫画『DEATH NOTE』(集英社)の主人公・夜神月もまた、主人公でありながらラスボスポジションに収まったキャラだ。

“デスノート”の力で犯罪者のいない新世界の神になろうと決意した月。正義のために悪人を裁く「キラ」となり、警察や探偵たちと激しい頭脳戦をくり広げていく。第1部では世界一の探偵・Lと一進一退の攻防を繰り広げ、互角のライバルと競い合う主人公らしい活躍を見せた。

続く第2部でも月はLの意思を継ぐニアやメロたちと緊迫感ある駆け引きをするも、最後はすべての悪行を暴かれてしまい、死神リュークの手で“デスノート”に名前を書かれて命を落とす。それまで彼が無数の命を奪ってきた方法で死ぬとは、なんとも皮肉な話だ。

もともと月は正統派主人公とはいえない思想を持っており、目的のために他人を積極的に殺そうとする考え方はむしろ悪役のそれだ。『DEATH NOTE』の物語はそんな月が死ぬことで幕を閉じる……。こういった要素をふまえると、月こそが本作のラスボスとも考えられるだろう。

正義が悪を倒す王道の主人公もいいが、今回見てきたように主人公がラスボスのような活躍をする展開も魅力的だ。「本当にこの主人公を応援していいのか?」という不安がスパイスとなり、ページをめくる手を止めさせない。そんな「ラスボス系主人公」の面白さは、数ある名作が証明している。

もし、あなたが連載中の漫画を楽しんでいるのなら「この主人公はラスボス化するだろうか?」と思いながら読んでみるのもまた面白いかもしれない。

© 株式会社双葉社