『虎に翼』石田ゆり子「地獄をみる覚悟はあるの?」 はるは寅子にとって最も頼れる存在に

寅子(伊藤沙莉)の明律大学女子部法科への道はもう一歩。最後に立ちはだかる敵は母のはる(石田ゆり子)だった。朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)第5話では、寅子が最後の敵であるはるを倒し、地獄への切符を手にするまでが描かれる。

教授の穂高(小林薫)をはじめ、父の直言(岡部たかし)も女子部に進むことに賛同し、願書の提出も手伝ってくれた。しかし、それははるが実家に帰っている間に行われていたこと。お見合いを勧めるはるが、女子部進学をすぐさま認めてくれるはずもなかった。

「女性にとっての幸せ」は第1週、ひいては『虎に翼』におけるテーマの一つだろう。はるが考える幸せとは、新しい綺麗な振袖を着て、できるだけ自分に見合った素敵な殿方とお見合いをし結婚すること。直道(上川周作)と出会い猪爪家に嫁入りした花江(森田望智)がそうであるように、寅子の進学に反対した女学校の女性教師(伊勢佳世)もきっと同じ考え、つまりは世間一般の女性がそうであったと言える。

加えて、はるには子供の幸せを第一に考える母親になろうという決意もあった。丸亀の旅館に生まれ、自分を嫁がせることでうまみをもたらすある種の“駒”としか見られていなかったことからの反動だ。女子部に進んだとて、夢破れ、親の世話になり、嫁の貰い手がなくなって、惨めな思いをする。そんな心から笑えない道は地獄だと、寅子ははるの愛情を一身に受けるも、寅子にとってはその道も地獄にしか思えなかった。

そんなはるの頑なな考えを変えたのは、桂場(松山ケンイチ)の一言だった。甘味処「竹もと」で桂場と再会した寅子。女子部に進学するつもりだが母親に反対されていると相談するが、桂場も進学には反対、時期尚早だと述べる。「君のように甘やかされて育ったお嬢さんは、土俵に上がるまでもなく血を見るまでもなく、傷つき泣いて逃げるのがオチだろう」という桂場の言葉に立ち上がったのは隠れて話を聞いていた、はるだ。「女の可能性を摘んできたのはどこの誰!? 男たちでしょ!」と告げ、はるは寅子を連れ、竹もとを飛び出していく。

三度目のお見合いに必要な振袖を買うための呉服屋を通り過ぎ、向かったのは法学専門書店。はるが注文したのは六法全書、女子部法科という地獄を勝ち抜くためのアイテムだ。駆け落ちに近い形で直言と一緒になったことを、はるは後悔してはいない。けれど、明治から大正を経て、昭和という新たな時代を迎えた今。自分の大切な娘が男の顔色を見てスンッとしてほしくないと思ってしまった。猪爪家の台所で寅子と話すはるの言葉の端々には、男性に媚び諂うことへの本心が滲んでいるが、言わばはるが六法全書を頼むことは“頭の悪い女のふり”をやめた瞬間でもある。

はるの寅子への最後の確認。「今、お見合いした方がいい。その方が間違いなく幸せになれる。それでも本気で、地獄を見る覚悟はあるの?」という問いかけに、寅子は「ある」とまっすぐはるの目を見て返答する。「そう」と穏やかに肩を上げて笑みを見せるはるに、寅子も思わずつられて笑う。母娘が打ち解けたと同時に、寅子にとって最も頼れる存在がはるだということをこの第1週で示してもいる。

六法全書を手にし、寅子が法律の道を目指す決意を固める橋の上でのラストシーン。寅子のバックには印象的に様々な世代の女性たちが映し出されている。奉公少女に、大きな荷物を背負った老女。第1話のアバンでは、戦後の法改正によって「日本国憲法第14条」という女性の権利を手にした15年後の寅子が描かれているが、一緒に少女や老女の未来も登場している。つまり『虎に翼』は寅子の物語であり、はるや花江、少女、老女たち一人ひとりのドラマでもある。それは寅子が女子部で出会う同級生たちの登場によって、より色濃くなっていくことだろう。

余談ではあるが、『虎に翼』の放送とセットでお勧めしたいのが、伊藤沙莉と松岡茉優によるPodcast番組『お互いさまっす』。というのも、ちょこちょこと『虎に翼』のエピソードがインサートされるからだ。3月24日にライブ配信された「春の生配信祭り」では、番組グッズの話から「靴下を、トラつばグッズとして作って、みんなで今履いてるの」という伊藤の発言もあった。なかでも紹介したいのが、第4回で朝ドラの話から、「そんなことより出てよ」(伊藤沙莉)、「あら、出るわよ。だけど本当に助けたいの」(松岡茉優)、「来てほしい」(伊藤沙莉)というやり取りがあったこと。NHKドラマ・ガイド『連続テレビ小説 虎に翼 Part1』では、友人として伊藤に愛のあるコメントを送っている松岡がきっと主演を張る伊藤にそっと寄り添う存在にある。そして、どこかでひょっこり友情出演として姿を見せてくれたらと思う。

(文=渡辺彰浩)

© 株式会社blueprint