物価上昇の韓国 子どもの塾代は月11万円にも 現地人が悲鳴を上げるリアルとは

日本人に人気の旅行先のひとつ、韓国(写真はイメージ)【写真:写真AC】

韓流ドラマにK-POP、グルメや美容にショッピング……。日本人にとって身近な海外旅行先として韓国が選ばれるのは、飛行機で2~3時間のうえ、時差がないことも理由のひとつかもしれません。昨年5月に新型コロナが5類に移行してからは、より旅行マインドもアップしているでしょう。そんな韓国は今、どうなっているのでしょうか? 現地在住の韓国の方に、リアルな生活状況を聞きました。

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欧米や日本だけではなく、韓国でもインフレ中

ゴールデンウィークに向け、韓国への旅行計画を練っている人はたくさんいることでしょう。

日本政府観光局と韓国観光公社によると、2023年の日本人の海外渡航者数は約962万人で、そのうち約232万人が韓国を訪れています。訪韓観光客のトップは日本人で、約21%を占めているそうです。

3月22日現在のレートで1ウォンは0.113円。1000円は約8800ウォンです。急激な円安が進むなか、対ウォンならまだなんとかなりそうな為替レートといえるかもしれません。日本や欧米ではすさまじいインフレも伝えられていますが、韓国はどうなのでしょうか。

50代の金志垠(キム・ジウン)さんは、ソウルから南に約35キロメートルのスウォン在住。「観光に来たみなさんは、まだそれほど驚くようなインフレは感じないかもしれません」というのですが、生活者には厳しい現実がたくさんあるそうです。

ソウル市内のスーパーマーケット【写真:芳賀宏】

避けて通れないのが食費。「肉はまだそれほど価格が上がっているようには思わないのですが、びっくりしてしまうのは野菜や果物。もはやデンジャラスな領域ですよ」と苦笑いします。最近も「リンゴ(韓国産)を買おうとしたら、1個7000ウォン(約793円)というのを見て諦めました」といいます。

そのほかにも、電気代やガス代は「今年に入って急速に上がりました。20%から30%上がっている実感」があるそうです。

ソウルのアパートメント(写真はイメージ)【写真:写真AC】

住宅費もインフレ アパートメントの管理費は今年から倍に

一方、住宅問題も気になるところ。韓国にも分譲はありますが、賃貸物件には「チョンセ」と呼ばれる独特のシステムがあります。最初に一定程度の保証金を大家に預け、たいていは2年契約の終了時に全額が戻ってくるというもの。日本のように毎月支払う「ウォルセ」という仕組みもあるものの、賃貸価格の高いソウルなどではチョンセが多いそうです。

なぜそんなシステムが成り立つのかというと、大家が保証金を運用することで利益を出すから。日本はマイナス金利政策が解除されたばかりですが、韓国は銀行の金利が3.5%程度と高いために成立するのだそうです。

近年は賃貸人に返還できずに問題化する事例もあるようですが、このシステムなら、建物を維持管理するための管理費は別途払う必要はあるものの、事実上は賃料無料で暮らせます。金さんも、日本円で約3500万円を保証金として預け、アパートメントに住んでいます。ところが……。

「13万ウォン(約1万4700円)ほどだった管理費が、今年に入って倍になりました」とため息をつきます。物価高がじわじわと迫ってきていることを実感しているそうです。

長男の塾代は月に11万円 家計を圧迫する学歴社会

そんな金さんに追い打ちをかけるのが、韓国の“学歴社会”です。受験生が遅刻しそうになって「白バイが送り届けた」……というニュースが日本でも報じられるように、大学受験は大きなイベント。というのも、韓国では財閥系などの大企業に就職するためには、有名大学に入ることが必須だからです。

金さんの高校1年生の長男も、受験に向けて塾通いをしています。英語、韓国語などを勉強し、帰宅はほぼ毎日午後10時頃だそうです。もちろん、子どもの将来を案じる親ですからできる限りのことはしていますが、「塾の費用は毎月100万ウォン(約11万円)もかかるので大変です」と打ち明けてくれました。

大学に進み、晴れて就職できても競争は続きます。金さんの姉の夫は某有名財閥系企業に勤めていますが、「社内の競争も大変なようで、今年はボーナスなしだったみたいです。姉も困っていました」と話します。

ソウルの屋台(写真はイメージ)【写真:写真AC】

「今のソウルはあまり東京と変わらない気がします」

では、韓国内の物価はどれくらい高騰しているのでしょうか。英経済誌エコノミストが発表する「ビッグマック指数」は、世界各国のビッグマック価格を比較することで為替や物価水準をはかるユニークな指標です。

2024年1月発表分によれば、本家アメリカは9位で863円(5.69ドル)、31位の韓国は623円(5500ウォン)、日本は45位で450円(現在は480円)と、日韓にさほど開きはなさそうです。

ちなみに、3月にソウルの街を歩いてみましたが、人気が高い明洞周辺の屋台でも1000ウォンから5000ウォン(約110円から560円)と、まだ気軽に食べ歩きができる価格でした。

それでも金さんは「15年前に日本に行ったときは『高いな』と思ったけど、今のソウルはあまり東京と変わらない気がします」と話していました。グルメやエンタメなど、魅力いっぱいの韓国、楽しめるうちに楽しんでおいたほうがいいかもしれません。

芳賀 宏(はが・ひろし)
千葉県出身。都内の大学卒業後、1991年に産経新聞社へ入社。産経新聞、サンケイスポーツ、夕刊フジなど社内の媒体を渡り歩き、オウム真理教事件や警視庁捜査一課などの事件取材をはじめ、プロ野球、サッカー、ラグビーなどスポーツ取材に長く従事。2019年、28年間務めた産経新聞社を早期退職。プロ野球を統括する日本野球機構(NPB)で広報を担当したのち、2021年5月から「地域おこし協力隊」として長野県立科町に移住した。

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