荻窪、三鷹、吉祥寺、中野……アニメ制作会社が特定のエリアに集中した背景は? 2020年代からは渋谷にも

4月からアニメ会社で働きはじめた新人スタッフに対して、注意を呼びかけるツイートが話題となっている。荻窪、三鷹、吉祥寺、中野といった中央線新宿以西のエリアや、練馬、大泉学園といった西武池袋線沿線のエリアで未発表の作品や制作中の作品に関して喋ると、上記のエリアにはアニメ関係の仕事に就いている人が多いため情報漏洩になる可能性が高い、という内容だ。

憧れていたアニメ業界に就職し、ついつい気が大きくなって友達相手に業界トーク的な会話をしたくなる……というのは、確かに新人スタッフにはありそうな話である。しかし、なぜ中央線の西の方や、西武線沿線のエリアにはアニメ業界の関係者が多いのだろうか。

一般社団法人日本動画協会が作成した「アニメ産業レポート2023」によれば、2020年に調査した時点で日本国内のアニメ制作会社は811社存在し、そのうち85.3%にあたる692社が東京に本社を置いている。そして東京に本社がある会社のうち、149社が杉並区、103社が練馬区に立地しているのだ。さらにこの2区を中心として中野区、武蔵野市、西東京市、三鷹市などにも数多くアニメ制作会社が分布しており、日本のアニメ産業は杉並と練馬を中心に回っていることがわかる。このエリアで制作中のアニメについて大声で話せば、確かに情報漏洩もするだろう。

杉並と練馬にアニメ制作会社が集中している理由には、日本におけるアニメ産業のごく初期まで遡った理由がある。現存する日本のアニメ制作会社の中では最も古い東映動画(現東映アニメーション)が、1956年に西武池袋線の大泉学園駅近くで創業。また1961年には同じく西武池袋線の富士見台駅近くで虫プロダクションが創業している。製作した素材を会社間でやり取りする必要があるアニメ産業では、立地が近いことが重要であり、この二社を中心として練馬周辺に関連会社が増えていった。

一方、杉並区を中心とした中央線沿線エリアに関しては、1962年に設立された竜の子プロダクション(現タツノコプロ)が、中央線国分寺駅から西国分寺線で2駅の鷹の台にスタジオを構えていた。さらに1964年に東京ムービー(現トムス・エンタテイメント)が南阿佐ヶ谷で創業。この二社が、中央線沿線にアニメ制作会社が多数設立されるきっかけとなった。

上記のツイートの注意喚起には、このように日本アニメの草創期から連なる理由があったわけだが、2020年代に入ってアニメ制作会社が増えているのが渋谷区だという。こちらに関しては、アニメ制作におけるCGの多様が背景にある。従来なら手描きで制作されていた工程がCGに置き換えられるケースが増えたことで、ゲームや実写、パチンコなど遊興機器用のCG映像を制作していた企業がアニメ業界に参入。また、アニメ関連企業がCG専門の制作会社を設立する動きも進んでおり、それらの企業が渋谷を中心とした副都心で開業しているのだ。「アニメ産業レポート2023」に掲載された2020年の調査では、渋谷区のアニメ制作会社の数は52社と練馬・杉並に次ぐ数となっており、今後も増加が見込まれている。

というわけで、小オン後は渋谷区や隣接する新宿区、港区といったエリアでも業界トークは御法度になるかも……。もちろんどこで喋っても情報漏洩は情報漏洩なので、新人スタッフの皆様におかれてはぜひご注意願いたい。

(文=しげる)

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