北朝鮮拉致被害者家族・横田拓也さん、“もしトラ”質問に回答「どなたが次期大統領になるにしても」

会見に出席した横田拓也さん【写真:ENCOUNT編集部】

めぐみさんは13歳当時に北朝鮮工作員によって拉致された 母の早紀江さんは88歳に

北朝鮮による拉致被害者、横田めぐみさんの弟で、拉致被害者家族会代表の横田拓也さんが5日、東京・丸の内の日本外国特派員協会で記者会見。「全拉致被害者の即時一括帰国の実現」への思いを訴えた。

めぐみさんは1977年11月15日、新潟で中学校からの下校途中、北朝鮮の工作員に連れ去られた。めぐみさんは失踪当時13歳。一方で、母の早紀江さんは88歳になった。拉致被害者家族の高齢化が進んでおり、解決に向けた時間が切迫している。

横田さんは冒頭、このほど台湾で発生した地震に触れ、「亡くなられた方、被災をされている方にお悔やみとお見舞いを申し上げます」との言葉を述べた。

会見場には、仲むつまじい笑顔を見せる幼い子どもたちが印象的な家族写真が掲示された。

「最初にこちらの写真を見てください。姉・めぐみが拉致される前の広島での家族旅行の1枚です。どこにでもある普通の家族の姿です。こうした当たり前の幸せな瞬間が、一方的な暴力による現状変更によって、46年間も人権が蹂躙(じゅうりん)され、家族の絆が引き裂かれたままなのです。もし皆さん自身がそのようなひどい状況下にあり誰も助けてくれない、皆様の大切なお子様が拉致されたまま人質として拘束されても誰も見向きもしてくれない。その時にどう思われるでしょうか?」と訴えた。

拉致後に北朝鮮国内で撮影されたとされるめぐみさんの写真も掲示し、「これほど悲しそうで不安な顔をしためぐみを見たことがありません。姉がもし拉致されていなければ、どれだけ多くの自己実現や社会貢献ができただろうか、両親のところへ孫を連れて幸せいっぱいの時間を過ごせただろうかと思います」。悲痛な思いをにじませた。

被害者家族を悩ませる“時間の壁”にも言及。「北朝鮮は今も人質外交を続けています。日朝首脳会談から21年がたち、闘いの中で、拉致された自分の家族やきょうだいとの再会を果たせず、他界された親世代が何人もいます。私の父・滋も、めぐみとの再会を夢見て最前線で声を上げて闘ってきましたが、2020年6月に他界しました。父の無念な気持ちを思うと胸が張り裂けそうです。めぐみとの再会を待つ母・早紀江は88歳です。1997年に発足した家族会、当時最前線で声を上げていた親世代の家族は、拉致被害者の有本恵子さんのお父様・明弘さん95歳と、めぐみの母・早紀江の2人だけという厳しい状況です。残された時間がないのです」と強調した。

こうした現状を踏まえて、新方針で動き出すことについて表明。「私たち家族会、救う会は新たな運動方針を決めました。親世代の家族が存命のうちに全拉致被害者の一括帰国が実現するなら、我が国が人道支援を行うことと、我が国が科している独自制裁を解除することに反対しないという内容です。この運動方針を決めたあと、3月4日に首相官邸で岸田首相に私たちの考え方をお伝えしました。北朝鮮による日本人拉致事件は、加害者が北朝鮮で、被害者が日本国・日本人という単純明快な構図です。本来、被害者側が加害者側に譲歩するような話ではありません。それでも、どうしても親世代の家族と拉致被害者本人に会わせてあげたいという一心で、新たな運動方針を作成し、北朝鮮にメッセージを発信しているのです」と語った。

「金委員長の勇気ある英断を期待したいです」

4月10日に米国で日米首脳会談が予定されており、大きな外交・政治日程が控えている。横田さんは北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記の名前を挙げ、「日本人拉致事件を解決させるのは、当事者である日本国の責任です。岸田首相は日朝首脳会談を実現させ、譲歩することなく、全拉致被害者の即時一括帰国を具体化してほしいと思います。また、日朝両国がお互いに抱える人道問題を解決することで、両国が明るい未来を描けるのだということを、金正恩委員長(総書記)に伝えてほしいと思います。今月4月の日米首脳会談の場では、日本が日朝間にある人道問題である拉致事件を解決させることを強くアピールするとともに、米国の変わらぬ協力と支援をいただけるよう、そして、拉致問題を解決するまで制裁をけっして緩めてはならないことを、首脳同士で約束してほしいと思います。最後に金委員長の勇気ある英断を期待したいです」。

質疑応答で、バイデン政権の拉致問題解決に対する評価に加えて、ドナルド・トランプ氏が大統領再選した場合の拉致問題解決の可能性についての見解を聞かれる場面があった。横田さんは「今月の日米首脳会談はとても重要な場だと思っています。米国の大統領とお会いしたのは、2006年のブッシュ大統領とホワイトハウスの中でお会いしたことをはじめ、トランプ大統領、バイデン大統領ともお会いしていて、それは共和党であっても民主党であっても、アメリカとしてこの人権問題である日本人拉致事件は必ず解決させる、北朝鮮の暴挙を許さないという価値観はぶれていませんから、それはもう今度どなたが次期大統領になるにしても、引き続きアメリカの姿勢を貫いてほしいと思っていますし、そのことを今度岸田首相が訪米される時は日米首脳同士の約束を交わしてきてほしいと思っています」と答えた。

そのうえで、横田さんは直近の予定として独自の施策に取り組むことを明かした。「まだ予定を設計中の段階ではありますけれども、このゴールデンウイークも、昨年に続いて、家族会と救う会と拉致議連で訪米をして、アメリカ国内は大統領選前ですからなかなか私たちが考えているほど面会は簡単ではないと思っていますが、そこで政府関係者や上下両院議員、シンクタンクの方々ともう一度お会いして、私たちの運動方針を伝えて、日本政府が北朝鮮当局と与しやすいように、そういった環境整備もしてこようかと思っています」と言明。早期解決に向けて、できる限りのことに尽力していくことを改めて強調した。

海外の記者を含めて多くの質問が飛んだ。その1つ1つに真摯(しんし)に、はっきりとした口調で答えた横田さん。「(日本政府には)部分的解決でお茶を濁してはなりません。北朝鮮による人質外交がまだ続いているという残虐性を世界に知ってもらいたいです」など、強い思いを何度も口にした。ENCOUNT編集部/クロスメディアチーム

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