タクシー会社倒産、過去10年で最多 背景に「2024年問題」と「ライドシェア解禁」...シロウト運転手は敵か味方か?専門家に聞いた

「タクシーがつかまらない」

台数不足が深刻なタクシー業界で、倒産件数が過去10年で最多を更新したことが、帝国データバンクが2024年2024年4月3日に発表した「『タクシー業』の倒産動向」で明らかになった。

おりしも2024年4月から「運転手の2024年問題」によって残業規制が始まり、ドライバー不足に拍車がかかる。また、同時に一般人が自分の車で乗客を運ぶことができる「ライドシェア」が解禁された。

タクシー業界にとって「吉」と出るか、「凶」と出るか。調査担当者に聞いた。

「ライバルとなる競争相手」か「共存共栄のパートナー」か

帝国データバンクの調査によると、2023年度に発生したタクシー業の倒産は33件で、2年連続で前年度(28件)を上回ったほか、これまで最多だった2011年度(36件)に迫る水準となった【図表】。

(図表)「タクシー業」倒産件数推移(帝国データバンク作成)

タクシー業界はコロナ禍に発生した、利用客減少による売上高の急減から立ち直りつつある。しかし、プロパンガスなど燃料代の高騰が収益を圧迫し、経営環境は厳しさを増している。33件の倒産のうち、約半数を「物価高」倒産が占めた。

(図表)「赤字」のタクシー業は4割超の水準(帝国データバンク作成)

こうしたなか、近時は需要増にも関わらず「ドライバー不足」で営業が困難になるタクシー会社の経営破綻が目立ち始めた。2024年1月、名古屋市の「毎日タクシーグループ」がドライバーの高齢化や不足から運行に行き詰まり、事業継続を断念した。

同じく1月には、岩手内では2番目の業績規模を誇る盛岡市の岩手中央タクシーが破綻。また、長崎県の島原鉄道グループの島鉄タクシーが廃業を発表。3月には大阪市の「関西中央グループ」傘下の8社のタクシー会社が民事再生を発表した。

こうしたことから、帝国データバンクでは、リポートをこう結んでいる。

「足元では慢性的なタクシー不足に対し、代替交通手段として『配車アプリ』を活用したライドシェア制度が部分的に解禁された。タクシー業界にとっては、『ライバルとなる競争相手』か『共存共栄のパートナー』かの見極めが急務となる。
『安心できる移動手段』としてのタクシー運行をどう存続させるのか、利用者・タクシー会社ともに再考すべき時期に差し掛かっている」

さまざまなサービスに挑戦しても、無念の破綻相次ぐ

これからタクシー業界は、どうなるのか。J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を担当した帝国データバンク情報統括部の飯島大介さんに話を聞いた。

――タクシー業界のピンチの理由は、燃料の原油高も影響していますが、運転手の人手不足が大きいとあります。そもそもなぜドライバーが不足しているのですか。

飯島大介さん 理由は2つあります。

まず、少子高齢化によって若者の間でタクシー運転手になりたいという人が減っていること。歩合制のところが多く、不安定な職業ですからね。もうひとつは、ベテラン運転手がどんどん定年退職をして辞めていること。

また、コロナ禍で外出が減り、客が急減したため解雇した運転手が戻らなかったことも大きいです。

――以前、バスの運転手不足の問題を取材した時に、賃金が低いことと、クレーマー客から「運転が荒っぽい」と文句を言われたりする「カスタマーズハラスメント」を受けることが大きいと聞きました。

飯島大介さん タクシー運転手の場合は、お客を自分で選べますから、「カスタマーズハラスメント」の問題は少ないでしょう。また、賃金もバスの運転手よりはいいと思います。

ただ、同業のライバル会社が優秀な運転手を好条件で引き抜くことが盛んに行われていますから、人手不足が深刻な会社とそうでない会社の差が大きくなっています。

――倒産した各タクシー会社を信用機関調査などで調べると、たとえば名古屋市の「毎日タクシー」は「お迎え料金無料」のサービスを展開していました。盛岡市の岩手中央タクシーは介護タクシーや、子育て支援タクシー、運転代行とさまざまなサービスに挑戦していました。

大阪市の関西中央グループ8社は、大阪で初めて「55割(ゴーゴー割)」サービスを導入したところです。5000円を超えた運賃を5割引にする仕組みで、終電後の遠距離客などが獲得していました。それぞれ懸命に努力してきたのに報われないわけですね。

飯島大介さん 特に地方では、タクシー業界の中堅や上位企業の経営破綻が相次いでいます。全体的にお客の数が減っていますから、さまざまなサービスの工夫をしても客の単価が低くなり、燃料費や人件費を稼ぎ出すことが難しくなっているのが現状です。

短距離をライドシェア、長距離をタクシーとすみ分ければ...

――そんななか、ライドシェアが一部で始まりました。リポートでも問いを投げかけていますが、「ライバルとなる競争相手」、つまり敵になるのか。それとも「共存共栄のパートナー」、つまり味方になるのか、どう思いますか。

飯島大介さん ライドシェアは、まだ観光地などの一部のエリアで始まったばかりなので、どこまで普及するのか、見極めは難しいと思います。ライドシェアはシロウトのドライバーが乗客を運ぶので、スタート時は近距離が基本になります。

たとえば現在、成田国際空港での白タクが問題になっています。空港から都市部までの長距離客を白タクに取られては、タクシー会社は困ります。長距離客こそ、儲けの源泉だからです。しかし、タクシー会社は利益の薄い短距離客も含めて、バラツキのあるすべての客に対応しなければなりません。

もし、短距離客をライドシェアが受け持ってくれれば、タクシー会社は儲けの多い長距離客に集中することができます。お互いに補完し合ってウインウインの関係になれます。

――なるほど。それが「共存共栄のパートナー」ですね。では、敵である「ライバルとなる競争相手」では、どんなケースが考えられますか。

飯島大介さん ライドシェア側が、シロウトの副業に甘んじるのをやめて、「もっと儲けたい」と長距離路線に参入してくるケースです。ライドシェアのほうが運賃は安いですから、立場が逆転して脅威になります。

また、ライドシェアが事故や事件を起こした時のイメージダウンも心配です。プロとしての教育を受けていないシロウトが一般人を運ぶわけですが、管理はタクシー会社が行ないます。ドライバーの安全教育をどうするのか、事故の際の責任をどうするのか、しっかり決めないまま見切り発車してしまいました。

安全性の確保はタクシー会社の責任になりますから、業界には懸念の声が高まっています。

業界の「二極化」が進み、淘汰される会社が出てくる

――今後、タクシー業界はどうなるでしょうか。倒産がもっと増えるのか、それとも持ち直していくのか。

飯島大介さん 正直、何とも言えません。ドライバー不足が解消しないなか、中東情勢がさらに悪化して原油高になることが心配です。

その一方で、国内の景気は回復基調にあり、インバウンドも増えているし、タクシーの初乗り運賃も上がり、収入増が期待できます。

これからは、運転手にいい条件を出せるところと、出せないところの二極化がどんどん進み、淘汰される会社が多く出るでしょう。今後に注視したいと思います。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)

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