居酒屋「しぇんろん」 一度は閉店決意も朝日町移転へ 美味しい酒と食事、これからも 藤沢市

常連客からの寄せ書きを手にこれまでの歩みに思いを馳せる羽鳥夫妻

南藤沢で創業29年の老舗居酒屋「しぇんろん」が6月中旬、朝日町に移転し、新たな門出を迎える。経営難から一度は閉店を決意したが、ファンから存続を求める声が相次ぎ、移転資金を募るクラウドファンディング(CF)は3日間で目標の300万円を達成。店主の羽鳥祐司さん(64)と妻の真理子さん(64)は「本当に感激している。大切にしてきた日本酒や食文化の発信をこれからも続けていきたい」と話している。

同店は1995年7月に元会社員だった祐司さんが脱サラして開業。アニメ「ドラゴンボール」が好きだった息子の案で7つのボールを集めると願いが叶う「神龍」にちなんで店名をつけた。

当初はラーメンや餃子など中華料理を中心に提供。ランチ時には会社員や工事関係者らで賑わい、その後は夜の宴会需要を呼び込もうと、日本酒やつまみの品揃えを少しずつ増やしていった。

転機は「センム」の愛称で親しまれた神亀酒造(埼玉県)の故・小川原良征さんとの出会い。戦後初の全量純米酒を打ち出した蔵元で、その信条に感銘を受けた。

「純米酒の良さを伝えるには(お客に)食べて飲ませればいい。でも、純米酒に合う料理じゃなきゃ駄目なんだ」

以来、調味料まで無添加にこだわり、手料理と全国で付き合いのある蔵元から取り寄せた純米酒を提供。祐司さんは「本醸造の酒は大手がやればいい。純米酒こそ自分たちが生きる道なんだと教えられた」と振り返る。

だが、酒の飲み方が変化し団体客は年々減り、新型コロナ禍ではぱたりと客足が途絶えた。蔵元関係者を招いたイベントやブランド豚を使ったハムやソーセージの製造販売、店舗面積を縮小するなど試行錯誤したが、コロナ後も思うように客足が戻らず、昨年11月、苦渋の判断で店を閉めることに。

常連客からは閉店を惜しむ声が相次いだ。「ここで日本酒を覚えた」「美味しい料理が楽しみだった」「実家のような安心感があった」。どれも寄せ書きの言葉だ。

その後、客の1人から朝日町の古民家への移転を打診され、すがるような思いでCFを始めると目標はわずか3日で超え、500万円近くまで達した。「大勢の人が支援してくれて感謝の言葉を言い尽くせない。達成したと知ったときは足が震えた」と真理子さん。

店の歴史を重ね、自分たちも日本酒や食文化の魅力を微力ながら伝えてきた自負がある。夫妻は「移転先では食文化を始め、色々な文化を発信していく拠点として育てていけたら」と展望した。

移転は6月中旬を予定。住所は朝日町12の11。CFは専用サイトの「READYFOR」で4月8日まで。

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