『パスト ライブス/再会』幼なじみ2人の視線に胸が締め付けられる 全てが絵になる映像美

リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、ノラとヘソンと同じ36歳の宮川が『パスト ライブス/再会』をプッシュします。

『パスト ライブス/再会』

めちゃくちゃ良い。

できればそれ以上は何も書きたくない。自分の心の中にそっとしまっておいて誰にも共有したくない映画がそう多くない数あるが、『パスト ライブス/再会』はまさにそんな映画だ。

移住によって離ればなれになった幼なじみノラとヘソンの関係を3つの時間軸で描く本作。最初の舞台となるのは、2人が12歳のとき。韓国・ソウルに暮らす2人はお互いに恋心を抱いていたが、ノラが海外へ移住することになり、離ればなれになってしまう。次に描かれるのは、その12年後、2人が24歳のとき。ヘソンはソウルで、ノラはニューヨークでそれぞれの人生を送っていたが、ひょんなことからオンラインで“再会”することになり、しばらくやり取りを続けるようになる。お互いを想い合う2人だったが、実際に会えないもどかしさや将来のことを考え、すれ違ってしまう。そしてさらに12年後、36歳になった2人はついに本当の“再会”を果たす。作家のアーサーと結婚していたノラ。そのことを知りながらも、ノラに会うためにニューヨークを訪れるヘソン。24年ぶりにやっとめぐり逢えた2人が、ニューヨークで7日間を共に過ごすが……。

冒頭、バーで談笑するノラ、ヘソン、アーサーの姿を、カメラは他の客の視点で捉える。アジア人男女と1人の白人。3人はいったいどういう関係性なのかーー。するとヘソンがこちらに視線を向ける。

そんな冒頭のシークエンスが示すように、『パスト ライブス/再会』は“視線”の映画だ。メリーゴーランドを背景に視線を交わすノラとヘソンの姿が印象的に描かれたポスタービジュアルからもわかるように、映画の中ではノラとヘソン(+アーサー)がお互いを見つめ合う様子や、一方が相手に視線を向ける姿が印象的に描かれる。そして冒頭とラストで答え合わせのように描かれる、車の窓から外の景色を見つめるヘソンの視線……。それだけで胸が締め付けられる。

本作が長編映画監督デビュー作となったセリーヌ・ソンは、1988年生まれの現在36歳。ノラとヘソンと同い年だ。これを書いている私も現在36歳、どうりでグッとくるわけだ……。それはともかく、初恋相手に限らず、昔よく遊んだ友達や同級生、そこまで仲良くなかったけど気になる存在だった人の顔がふと思い浮かぶことがある。いまは何をしているんだろうかと、ネットで名前を検索してみる。多くの人がそういう経験をしたことがあると思うが、実際に会うまで行く人はなかなかいないのではないだろうか。ましてやすでに結婚相手がいるノラのような立場の場合は。そういう意味ではリアリティに欠けるのだが、ノラとヘソンの感情には共感しかない(ノラの夫アーサーにも)。

ほぼ3人の登場人物だけで物語が進行するこの作品の要と言えるのが、ニューヨークやソウルの街並み。どこを切り取っても絵になる撮影は格別で、まるで行ったことのないニューヨークに行った気になってしまうほど。

それでもいつか、ノラとヘソンが巡ったニューヨークを訪れ、2人が過ごした日々に思いを馳せてみたい。
(文=宮川翔)

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