「エレベーターホールに幽霊が出る」高級タワマンで拡散したコワいうわさ…管理組合の新任理事長が突き止めた〈驚愕事実〉とは

(※写真はイメージです/PIXTA)

高くそびえる威容を誇り、富裕層のステータスシンボルともなるタワーマンション(タワマン)。しかし、いくらゴージャスな建造物でも、中に広がるのは、そこに暮らす人々の生活の場だ。管理組合も存在し、組合理事長は住民の生活を守るため、朝から晩まで駆けまわっている。広大なタワマンだけに、その距離は半端ない――。本記事では、あるタワマン管理組合理事長の活動から、タワマン生活の実情に迫る。

タワマンライフを謳歌するはずが、理事長のお鉢が回ってきて…

都内一等地にそびえたつ、とあるタワマン。ウキウキでタワマン生活をスタートさせた50代の会社役員・T氏のもとに突然、「タワマン管理組合」の理事長のお鉢が回ってきた。

就任のタイミングは、初回の大規模修繕工事が終了した直後。しかし、この工事で当初の想定を大幅に上回る費用が発生し、余裕のはずの修繕積立金がスッカラカンに。以後は、将来の定期メンテナンスや大規模修繕に備え、住民たちに修繕積立金の大幅値上げをのんでもらわなければならないという、きわめて過酷な課題を背負っての理事長就任だった。T氏以外の住民たちはみんな、自分に順番が回ってこなかった幸運に胸をなでおろしていた。

「羨望の住まい」「富裕層の砦」などと持て囃されるタワマンだが、築10年を経過したころから、雲行きは一気に怪しくなっていく。初回の大規模修繕の実施時期に重なることで、多くの管理組合はタワマン維持・管理の難しさに直面することになる。

さらにその重圧だけでなく、管理組合、とくに理事長は、タワマンに暮らす住民たちのさまざまな要望、クレーム、ときには滅茶苦茶ないちゃもんにも、真摯に向き合わなければならない。

憧れのタワマンに引っ越したウキウキ気分から一転、T氏のツラすぎる理事長生活がスタートした。

早朝のエレベーターホールに響く謎の音に「幽霊だ!」

タワマンだからといって、すみずみまで静謐な空間が広がっているわけではない。一般のマンションと同様、生活騒音の苦情は日常的に理事会へと寄せられてくる。

日常的に騒音に悩んでいる住民の方も多く、「管理組合でなんとかしてください!」と詰め寄られることもしばしばあるが、悲しいかな、管理組合は住民個別の問題に対応できないのが実情だ。とはいえ、お声が掛かれば理事長はできる限り話を聞き、状況の鎮静化を図るよう努力する。

あるとき、T理事長のもとに奇妙な苦情が寄せられた。

「早朝のエレベーターホールから、鐘のような音が聞こえる」

数人から寄せられた同様の訴えに、T理事長は首をひねった。

「一体なんでしょうねぇ…?」

あちこち調べて回ったが、異常は見当たらない。

「何か気づいたら、また教えてください」

様子見をしていたT氏だが、うわさがうわさを呼び、数週間後には「エレベーターホールに幽霊が出る」とまで話に尾ひれがついてしまった。

これは放置できないと、T理事長は冬の早朝暗いうちから、マンション管理業者と一緒に現場に立って状況を見守った。

待機すること1時間。どこからともなく、「リン…リン…リン…」と、澄んだ高い音が聞こえてきた。

「あっ、聞こえるぞ!」

T理事長が管理業者のほうを振り返ると、20代前半と思しき彼は、目をこすりながらだるそうに言った。

「これ、たぶん目覚まし時計の音じゃないですかね…」

「おそらく、エレベーターシャフト(昇降路)の近くお宅の目覚ましの音が、壁を伝ってエレベーターホールまで響いているのだと思いますよ。前も別のマンションで、同じような話がありましたね、そういえば」

T氏は(だったら、先に教えろよ)という言葉をグッと飲み込み、「なるほど~!」と、感心して見せた。

業者を帰したあとに書類を調べると、たしかに業者が指摘した近辺で、最近住人が入れ替わっている。

T氏は目星をつけた部屋を訪れ、住人に事情を尋ねたところ、確かにその時間に目覚ましをセットしているということだった。寝起きが悪いため、お気に入りのアナログの目覚まし(かなり独特なベル音)を大音量で設定していたとのこと。住民はしきりに恐縮し、別の方法をとるようにします、と申し出てくれ、この問題は解決した。

エレベーターシャフトがボイスチューブ(船舶などで乗組員が業務連絡を交わす伝声管)のような役割を果たしてしまったことから起こる問題だが、設備の整ったタワマンにも、このような現象が起きることを知り、T氏は意外に思ったのだった。

深夜の騒音に悩む人、昼間の生活音をクレームされて悩む人

エレベーターホールのような共用部の騒音ならまだいいが、これが住戸内に響く騒音となると事態は深刻化する。

夜中に洗濯機を回す住戸があり、騒音被害を被る住民が「うるさくて眠れないから止めさせてほしい」と管理組合に泣きついてくる。だが、洗濯機を回している住戸の特定は簡単ではない。そのため、全住戸に向けて、

「夜中の洗濯はご遠慮ください」

「洗濯機の下に振動抑制ゴムシートを敷いてください」

といった内容のチラシを配るなどして対応するしかない。しかし、このようにアナウンスに強制力があるわけではない。実践してくれる住民もいるが、非協力的な住民もいる。結局、そこが管理組合の限界点なのだ。

また逆に、音に敏感すぎる隣人からの嫌がらせに悩まされる住民もいる。

「日中に掃除機をかけているだけで、隣のお宅が壁をゴンゴン!ゴンゴン!と叩いてくるのです」

壁を叩かれた住民は、隣宅に気を使って静音性の高い掃除機に買い換えたが、それでも「ゴンゴン!」は止まらない。

「掃除機なんて、どこのお宅でも使っているでしょう? 私、もう耐えられません、助けてください…」

恐らく隣の住民は強烈に神経質な人なのだろう。どんなに配慮しても「ゴンゴン!」が止むことはなく、そのうち少しでも生活音をたてると、壁から「ボスッ!」「ベコッ!」と、別のもので叩く音まで響くようになった。

「私たち、引っ越します…!」

壁を叩かれ続けたシニア夫婦は、疲れ切った表情でタワマンから去って行った。終の棲家として購入したという話を知っていたT氏は、気の毒な結末に胸を痛めたのであった。

「どこへ行かれたのであろうか…」

タワマンだからといって、音がまったく響かないというわけではない。騒音トラブルは、やはり一般的な集合住宅と同様、各所で起こっているのだ。

共用ラウンジのばか騒ぎ…問題解決はつねに「いたちごっこ」

騒音のクレームの頻度が最も高いのが、共用部の「ラウンジ」だ。夜間に貸切パーティーが催されたりすると、「ラウンジがうるさすぎる!」「眠れない、静かにさせてくれ!」といった苦情が飛び込んでくる。

パーティーで騒ぎたくなるのもわかるが、場が盛り上がっているときの声は、本人たちが思っているよりずっと大きく、甲高い。そのため、部外者には相当耳障りに聞こえる。

「夜間は使用禁止にできないか?」

「住民以外を招くパーティーを禁止できないか?」

等々いろいろな要望が寄せられるが、ガイドラインを設けて抑制するだけの権限は管理組合にはない。

T氏はこのようなクレームには、ひたすら対症療法で向き合ってきた。クレームがあるたびラウンジに足を運び、様子を見守るのである。常軌を逸するほど騒がしいと判断した場合は、勤務中の管理人や警備員に連絡し、注意喚起してもらうよう依頼する。これをひたすら繰り返す。まさにいたちごっこである。

管理組合のなかには、過去に2回以上注意された騒音常習者の場合、3回目以降の申込みは遠慮してもらうなどのローカルルール設定をしているところもあるようだ。

「タワマンの騒音」の根本原因

タワマンのように堅牢な建造物で騒音問題が頻発することを、不思議に思う人も多いかもしれない。実はそれには、高層建築ならではの理由がある。

高層建物は耐震設計上、上層階は薄く軽量の建材が多用されている。そうなれば、必然的に住戸間の壁は薄くなり、騒音や振動も伝わりやすくなる。上述の問題も、共用ラウンジ以外は上層階で起こったものだった。

タワマン住民こそ「お互い様」の心構えで暮らすことが大切なのかもしれない。

もちろんタワマンに限らず、共同住宅の住民間トラブルは上下・両隣で起こるもの。T氏の例にもあるように、管理組合は「お互いに思いやり、助け合いましょう」といった趣旨の啓蒙活動を行うのが限界で、個別問題には深く介入できない。

些細なことで日常生活を崩壊させないためにも、住民同士のコミュニケーションを円滑にすることが重要なのだ。

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