日本代表と訪れた「テヘラン」と「平壌」の共通点【北朝鮮とイラン、2つのW杯予選をつないだ花】(2)

テヘランでもレンギョウの花に囲まれた。W杯予選イラン戦のADカード。提供/後藤健生

日本はいよいよ本格的な花見のシーズンを迎える。蹴球放浪家・後藤健生にとって、花も取材活動を彩る対象のひとつだ。日本のスタジアムで花見をするなら、どこがいいか。そんなことを考えていると、花を媒介にして、1985年の平壌、2006年のテヘラン、2つのワールドカップ予選会場の姿が重なった。

■首都テヘランで思い出した「20年前の景色」

イランの首都テヘランでレンギョウの黄色い花を見たのは、2006年のドイツ・ワールドカップのアジア予選が行われたときでした。ジーコ監督の日本代表がテヘランを訪れたのは、2005年3月下旬のことでした。

試合会場は10万人収容のアザディ・スタジアム。スタジアムは大きな公園の中にありました。現在は、スタジアム周囲にスポーツやエンターテインメント施設がびっしりと建ち並んでいるようですが、当時はスタジアムのそばにも自然がたくさん残っていたので、僕はスタジアム周辺を散歩してみました。小さなグラウンドでは、地域リーグレベルの試合をやっていました。面白かったのは、背番号もアラビア文字の数字で書いてあったところです。

そして、ここでも黄色いレンギョウの花が咲き誇っていました。

その花の中を歩いていると、僕は突然、ちょうど20年前に見た平壌の景色を思い出したのです。

黄色いレンギョウの花に囲まれていたからだけではありません。テヘランの光景が、どこか、平壌の景色と似ているのです。

■山脈を越えて西側に行くと「大陸的な景色」に

朝鮮半島の南部の景色というのは、日本とあまり変わりはありません。たとえば、坂道だらけの釜山(プサン)の街を歩いていると、長崎の街を思い出すことがあります。地形も、地質も(たとえば山の形)、気候も(湿潤性)日本と大きな違いはありません。

しかし、朝鮮半島の東部(東海=日本海側)を南北に貫く太白(テベク)山脈を越えて半島の西側に行くと、なんとなく景色が大陸的なものに変わります。

ソウル市内を流れる漢江(ハンガン)は大陸の河を思い起こさせるような雄大な流れですし、土も日本海側に比べて乾燥しています。気候も大陸的で冬場は本当に空気が冷たくなります。冬の間、日本に張り出してくる寒気団は、大陸から朝鮮半島を越えて日本列島にやって来るわけです。

その、乾燥した大地はそのまま中国東北部(満州)からモンゴル高原、シベリアを通ってロシアの平原、さらにポーランドやハンガリーの平原までつながっているのです。モンゴル帝国をはじめとした、遊牧民族が行きかったユーラシアの大平原です。

そして、テヘランのあるイラン高原もその一角なのであり、だから、一面に咲くレンギョウの花を見ながら、僕は大平原の東の端に当たる平壌の光景を思い出したわけです。

■ジャカランダが咲き誇る「南アフリカの首都」

ジャカランダの紫色の花が咲き誇っているのを初めて見たのは、1981年にワールドユース選手権(現、U-20ワールドカップ)を観戦するためにオーストラリアを訪れたときでした。大会は10月に開催されましたが、南半球のオーストラリアでは、10月はちょうど春を迎えた時期でした。

ジャカランダはもともとは中南米原産の木ですが、雨が少なくてもよく育つので各国に移植され、とくに南半球のオーストラリアや南アフリカにも数多く植えられています(南アフリカの首都プレトリアは「ジャカランダ・シティ」と言われているそうです。

ラテン系の家の白い壁一面にジャカランダが紫の花を咲かせている光景は、とても美しいものです(スペイン語では「ジャ」(JA)の発音が「ハ」に変わりますから、「ハカランダ」になります)。

北半球のあちこちでは、桜だけでなく、さまざまな花が咲いて人々に春の訪れを告げていることでしょう。

© 株式会社双葉社