「涙の女王」キム・スヒョンの切ない表情に胸が痛む 急展開の7〜8話レビュー【韓国ドラマ】

結婚生活の危機を迎えているふたりの間に、愛を取り戻す奇跡は起こるのか? 「涙の女王」は韓国tvNで2024年3月9日から放送されているドラマ。Netflixで土曜と日曜に配信中です。マチュアリストでは全16話のレビューをお届けします。7〜8話について紹介しましょう。
※ネタバレを含みます

★1〜6話はこちら★

いまや韓国一の財閥にまでのし上がったクイーンズグループ。ストーリーは、グループ会長の孫娘ホン・ヘイン(キム・ジウォン)と、大恋愛の末に婿入りしたパク・ヒョヌ(キム・スヒョン)が直面している離婚問題と並行するかたちで、クイーンズグループの危うい経営問題を描いていく。

財閥という地位に胡坐をかいた創業家は、会長の30年来の愛人モ・スリ(イ・ミスク)とその息子ユン・ウンソン(パク・ソンフン)というやり手の企業買収家によって、為す術なく経営権を奪われてしまう。結婚も、家族も、ビジネスも、そこに愛がなければ“砂上の楼閣”になることを知る7~8話。ドラマは急展開する。

ヘインが「余命3カ月だ」と伝えたその時、ヒョヌの手には離婚合意書が握られていた——。その事実を知ったヘインは、「怒る気力もない」と脳腫瘍の治療すら投げ出す。だが、2人で幸せに過ごした時間の重さに気づいたヒョヌは、ヘインの生への執着を取り戻すべく、あえて辛辣な言葉で怒りを挑発する。

ある雨の晩、夫の裏切りや治療不可の診断結果の記憶が一時的に欠落したヘインは、ヒョヌと出会った4年前に借りた傘をさしながら、笑顔で懐かしい思い出を語り続ける。病状の進行速度はヒョヌを愕然とさせるに十分だった。残り時間は限られている。

だが同時に、ヘインの心には確かに自分への愛があったことを知る。そんなヘインを傷つけ、病気からも、孤独からも守ってやれなかった申し訳なさにこらえきれず、「ごめんな」と涙を流すヒョヌ。失った時間を取り戻すことは誰にもできないのだ。

演じるキム・スヒョンの切ない表情に胸が痛む。しかも、時折身にまとう、なよっとした空気感も彼にしか出せない可愛さがあって母性本能をくすぐる。キム・スヒョンは人たらしだ。

そんなヒョヌを見て驚き、「パク・ヒョヌ、サランヘ(愛してる)」と抱きつくヘイン。ところが、記憶を取り戻した瞬間、持ち前のプライドがよみがえり、離婚合意書に印を押す。

実は、誰もが羨む財閥家の一員になれたヒョヌが離婚を思い立った理由がどうしても理解できないヘインは、ヒョヌの日常生活を尾行させる。すると、大衆食堂で晩ご飯を食べ、バッティングセンターに行き、夜の校庭を走り回り……。たった一人でストレスを発散し、家に帰れば頭脳明晰で、何でも言うことを聞く実直な婿に徹していたことを知る。しかも、がんで母親を亡くした従業員に、ヘインの社長名で弔花と香典を届ける気配りまでしていた。

ヘインもヒョヌが密かに抱えていた婿としての痛みと人を思いやるやさしさを、離婚してはじめて痛感したのだ。このヘインの気づきが、ドラマ後半を支える重要なベースになりそうだ。

ヘインの気づきが、ドラマ後半を支えるか。
キム・スヒョンは人たらしだ。

もし夫婦の間に距離が生まれたら——。意地を張っていては歩み寄れない。でも、自分から折れるのはむずかしい。だから、相手の気持ちや反応を試してみたくなる。そんな夫婦のリアルがきめ細かく描かれて、思わず身につまされることが、沼落ちする人続出で高視聴率の理由なのだろう。脚本がすばらしい。

ヘインの離婚を知ったウンソンは、「度が過ぎる」強引さでヘインに言い寄り、クイーンズグループ経営の中枢に入り込む。ヒョヌは法務部長として、ヘインに「ユンと親しくするな」と忠告し、ウンソンの身辺調査を進めるが、ここからは圧倒的なスピード感で、財閥一家が崩壊への道を突き進んで行く。

モ・スリとウンソンが実の母子であることをヒョヌが突き止めたときには、時すでに遅し。クイーンズグループの株式は次々とウンソンの手に渡り、会長に毒をかがせて昏睡状態に陥らせたモ・スリは、法定後見人として会長の全権限を掌握していた。
無能な後継者を抱えた財閥家をターゲットに、不遇の母子が30年かけて着々と練り上げた乗っ取り計画はついに達成された。

ヘインが暮らす財閥家の豪華なライフスタイルは、ドラマ前半を支える重要なポイント。ファッション、食事、インテリア、イベント……。どれも見ごたえたっぷりで楽しめた。そこに時折、ヒョヌが生まれ育った龍頭里(ヨンドゥリ)での人間臭い田舎暮らしがはさみ込まれて、対比を際立たせていた。財閥ホン家の人々が、パク家のヒョヌやその家族を卑下する態度をとることを、クイーンズ社員は「恐怖のホン(紅)パク(白)戦」と揶揄していたくらいだ。

そんな気位の高さだけは誰にも負けない一族が、家長の愛人親子が起こしたクーデターで会社からも豪邸からもあっさり追い出されたのだから衝撃だ。財産も行く当てもなくなった彼らが身を寄せたのは、なんとヒョヌの実家。いよいよ財閥一家の“疎開生活”が始まる。

この展開は、『愛の不時着』を思い起こさせる。パラグライダーの事故で北朝鮮に不時着した韓国の財閥令嬢が、出会った将校と彼を取り巻く人情に厚い村人たちに助けられ、私が一番、と思って生きて来た自分を変えていく設定を彷彿とさせるからだ。

肩書も権力も財力も失った財閥パク家の人々は、龍頭里での暮らしで自分を変えることができるのか。クイーンズグループを手中に収めたウンソンに、ヒョヌは復讐劇を仕掛けることができるのか。それぞれのキャラが明確になった全員集合で、どんな化学反応が起きるのか、後半の展開が楽しみで仕方ない。

Netflixシリーズ「涙の女王」独占配信中


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