恐ろしい…中国経済が「世界最大」になったら【香港の金融調査会社のリサーチヘッドが解説】

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中国は1978年に始まった「改革開放」以降、目覚ましい経済成長を遂げ、現在は日本の経済規模の3倍以上となり、米国の約3分の2に迫りました。劇的な経済成長に伴い、日本や台湾、フィリピン、ベトナムなど、周辺国・地域に対する強硬な態度が目立つようになってきました。本稿では、香港の金融調査会社ギャブカルのリサーチヘッドであり、米国の米中関係委員会(NCUSCR)のメンバーでもあるアーサー・R・クローバー氏による著書『チャイナ・エコノミー 第2版』(白桃書房)から、中国の経済規模は世界最大になるのか、また世界最大になったら何が起きるのか、解説します。

中国経済は世界最大になるのか?

世界経済システムがこれから直面し得る課題の1つは、米国経済が世界最大でなくなる可能性だ。

しかし、今後20年間のどこかの時点で、中国が米国を追い越して世界最大の経済となる可能性が、決して確実ではないが存在する。

ただし、これがいつ起こるのか予測するのは簡単ではなく、近年の状況を見ると、こうした予測には注意が必要であることがわかる。

たとえば、2008年の世界金融危機の後、中国が2桁成長を続け、米国が低成長と悲観主義から抜け出せずにいた頃、その当時の両国の成長率を基に予測を行うと、2020年までに中国がナンバーワンになる可能性が示された。

実際は、中国はまだまだナンバーワンには程遠い。2019年には、米国の経済規模は中国より50%大きく、米国のモノとサービスの生産額(GDP)が21兆ドルだったのに対して、中国は14兆ドルだった。もし、両国が現在の名目GDP成長率(米国は4%、中国は7%)を維持するならば、中国経済は2033年にようやく世界最大となる【編集注:原著刊行当時の成長率を前提としている。2023年の中国のGDP成長率は5%前後となっており、米国の成長率を下回ることも多かった】。

もし中国の成長率が2020年代後半に、人口構成や他の要因によって大きく低下したら(それは十分あり得る)、中国が米国に追いつく年はさらに後になる。あるいは、追いつけないかもしれない。たとえ追いつけたとしても、トップにとどまるのに必要な、急速な成長を維持できるかはまったく確実ではない。

※ 厳密に言うならば、欧州連合 〈EU〉 が世界最大の経済単位である。しかし、世界の政治や経済のパワーについて議論する際には、この事実はあまり意味がない。EUでは労働者や資本の移動は自由とされているが、その加盟国の間では統治システムも別々なら財政や金融の仕組みも別々で、ユーロ以外の通貨が使われている場合もある (言語が異なるのは言うまでもない)。政治的にも軍事的にも、欧州勢力の展開力は、このような不統一により大きく蝕まれている。また、「欧州」全体としての地政学的な影響力も、欧州最強国であるドイツと比べると、おそらくは低いものである。

中国経済が「世界最大」になっても無意味!?

中国の人口は2020年代後半に減少し始め、2050年までには中国社会は今の日本と同じくらいに高齢化する。米国はまだ若年層が伸びており、中国よりも人口構成が若くなると予想される。

しかしここでは、10年後に中国が米国を追い抜いて、世界最大の経済になったと仮定してみよう。それは何を意味するのだろうか。

簡単に答えるならば、「それほどの意味はない」。中国の人口は米国の人口の4倍以上だ。

したがって、いつか中国のGDPが米国より大きくなったとしても、まったく不思議ではない。それでも、中国が米国を追い抜いて世界最大の経済になる時、人口1人当たりのGDPは、理論的には米国の4分の1に過ぎない(人口が4倍であるため)。

したがって、中国経済は米国経済よりも大きくはなるが、米国より貧しい経済でもある。この経済規模が国際的な影響力にどう転換されるかは、技術力と政治的なポジション次第だ。

歴史を見ると、最大の経済国が常に最も重要な国とは限らなかったことがわかる。1800年には中国経済は世界最大だった。しかし、世界への影響力においては、英国をはじめとした欧州諸国にはるかに劣っていた。

技術的な進化の速度で、中国は欧州に大きく遅れていたからだ。19世紀に決定的な要因となったのは、欧州の技術力の高さであり、GDPで見た欧州経済の規模ではなかった。

一方で米国経済は、1870年代半ばに世界最大となり、その時点ですでに新技術の開発をリードしていた。しかし、米国が世界で最も重要な国として台頭したのは、その70年後の第二次世界大戦後である。それまでは依然として英国が大きな影響力を発揮していた。

巨大な大英帝国と貿易網の支配、英ポンドの独占的な地位、国際金融の中心地としてのロンドン、そして米国の政策に強い孤立主義の傾向があったことなどから、英国が影響力を持っていた。

したがって、中国の今後の世界への影響力について考えるには、その経済規模よりも、これまでに示された影響力や、指導部が現在の地政学的な世界秩序を修正、あるいは塗り替えようとする欲望、そして技術面での能力についても検討する必要がある。

アーサー・R・クローバー

香港金融調査会社ギャブカル

リサーチヘッド

※本記事は、THE GOLD ONLINE編集部が『チャイナ・エコノミー 第2版』(白桃書房)の一部を抜粋し、制作しました。

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