渡辺謙&菊地凛子、意外にも物事はスパスパ決められない 最終的に大切なのは思いと熱意

(左から)渡辺謙、菊地凛子 クランクイン! 写真:高野広美

HBO MaxとWOWOWが共同制作したドラマシリーズ『TOKYO VICE』の続編『TOKYO VICE Season2』の放送・配信が4月6日21時よりスタート。前シリーズでは、東京の街に暗躍するヤクザと、ヤクザ絡みの事件を解決する刑事、そして日本の大手新聞社という視点からスリリングに展開する物語は大きな話題となった。今回、海外作品に数多く出演している刑事・片桐浩人役の渡辺謙と、大手新聞社の記者・丸山詠美役の菊地凛子の対談が実現。本作の魅力や自身の“決断”について語り合った。

■渡辺&菊地が語る『TOKYO VICE』の魅力

――シーズン2製作が決まったときはどんな感想を持ちましたか?

菊地:シーズン1のとき英語のせりふの量もそうですが、すでに自分のできる範囲を飛び越えているような大変な役だと思っていたので、正直大丈夫かなという思いが強かったんです。

渡辺:そう? すごく人間の深部に入っていく物語になっているので面白そうだったんじゃない?

菊地:確かにシーズン1のときより、各キャラクターのプライベートな部分の描写も多くなってきているので、面白そうだなとは思いつつ、英語に加えて韓国語のシーンもあったので、やっぱり不安が大きかったですね。

渡辺:でも彼女はそういう方が、闘争心が湧くタイプですからね。

菊地:いやいやいや(笑)。謙さんがおっしゃるように、キャラクターが深くなっていくという意味では演じ甲斐があるなと思いました。その期待感は「頑張るぞ!」というモチベーションにはなっていましたね。

渡辺:僕はシーズン1の終わりが「これどうなってんのよ!」という話で、完全にシーズン2ありきで脚本を書いているだろうから、これは絶対やるべきだろうと思っていました。でもすごいなと思ったのは、普通シーズン2になったら、花火を打ち上げるというか、ドラマチックな始まり方をすると思うのですが、シーズン1の終わりからの流れで、どんどん停滞したところから始まるじゃないですか。そこから登場人物のキャラクターにグッと入り広がっていく脚本にはびっくりしましたね。

――おっしゃるように、より登場人物にスポットを当てた物語になっているために、一言で「こんな作品です」と言いづらいドラマになっている印象がありました。

渡辺:でも、一言で表せないドラマっていうのがいいんだよね。一言で言えてしまったらつまらないから(笑)。そのなかでも、このドラマの舞台の90年代って、いまの社会の歪みみたいなものの原点になっているんだよね。記者クラブだったり、政治と闇の社会との繋がりだったり……。今まで本当に見えてこなかった部分で、エンターテインメントの世界でもなかなか描けなかった。その意味で面白い作品になっているなと思います。

――日本社会の裏側がリアルに描かれている?

渡辺:まあ一応フィクションではあるからね。でもアメリカなんかは、政治家や企業の不正というのは、実名でガンガンやるから。やっぱり日本はこれまであまりリスクを負わなさ過ぎたというところはあると思います。

菊地:実は90年代より今の方が発言しづらい世の中になっていますよね。『TOKYO VICE』の時代は、もっと発言や行動が荒々しかったなとは思います。例えば警察とヤクザが繋がっていたという事実があったとしても「そうなんだ……」と納得できるというか。今の時代の方がもっと隠れてしまっているのかなと思いますね。

渡辺:今は正しいか正しくないかという両極端しかない。グレーゾーンは絶対に認めないという息苦しさはありますね。

菊地:その意味では、割とスカッと見られる物語かもしれませんね。

渡辺:あとは先ほども話しましたが、シーズン1では社会の構造とかを描いて、シーズン2では登場人物の深部を描くという構成がいいですよね。主軸は変わらず人間ドラマになっている。

■窪塚洋介は大人になった

――その意味で、シーズン2から登場したキャラクターも個性的ですね。窪塚洋介さん演じる千原会・若頭の葉山は強烈なキャラクターです。

渡辺:めちゃくちゃだよね(笑)。あいつ(窪塚)がめちゃくちゃと言うわけではなく、あの役がね。刑事である俺とは(ヤクザなので)会っちゃいけない役だから、撮影自体はほぼ1日しか一緒じゃなかったんだけれど、いい意味ですごく落ち着いて大人になっていました。(窪塚演じる葉山の)やっていることはひどいんだけれど、俳優としての面持ちはドシっとしていて重心も下がっていた。大人になるってこういうことなんだな……って実感しました。

――渡辺さんは2000年に放送されたドラマ『池袋ウエストゲートパーク』で刑事と不良役で共演されていますが、やっぱり親心的な視線で見てしまう感じですか?

渡辺:親心って……ほっといてよ!(笑) っていうか、かなりきわどい役なので「どうするのかな」って思って見ているじゃない? あるシーンで俺が役柄上チャージしたんですよ。普通だったらガッて立ち上がって向かってくるところが、ドシっと構えてやり取りをしたわけですよ。そういう姿を見ていると「大人になったなー」って思うわけですよ(笑)。

■最終的に大切なのは思いと熱意

――本作では片桐は仕事と家族、丸山も家族や恋人との関係性で、さまざまな決断を迫られます。お二人もこれまでさまざまな作品に出演して、いろいろな決断に迫られてきたと思いますが、どんなところを重視して前に進んでいくのですか?

菊地:私はスパスパと物事を決められないタイプ。割とスロースターターなので、どんなことにも時間が掛かるんです。優柔不断なので、とにかく人に聞きまくりますね。そのなかでいろいろな意見を聞いていくうちに、自分の考えがまとまるという……。

渡辺:俺もそうだよ。そんなすぐに「OK!」なんて決められない。案件が大きければ大きいほど、最初は「NO」に近い感じで物事を考えます。頭のなかで「やったらどうなるか、やらなかったらどうなるか」みたいなことをグズグズとずっと考えちゃう。

菊地:私のイメージだと謙さんってすごく物事をはっきりと決断して進んでいくイメージだったので意外です。でもそういうとき、謙さんはどうやって決断するんですか?

渡辺:かなりグズグズしているよ(笑)。何か「これ!」という指針みたいなものはないかな。

菊地:そのなかで「やる」と決断したものは、好結果になっていますか?

渡辺:やった作品は、結果的にヒットするしないに関わらず、僕にとっては全部いい作品になっています。この間もテレビドラマをやったのですが、作家さんからオファーが来たとき、病気の役だったので、一旦断ったんです。僕は病気ものに対して「本当の病気の人たちの気持ちをドラマで僕が表現できない」と思っていたので、ほぼ受けないんです。思い出しても映画『明日の記憶』ぐらい。その後、作家さんからかなりの長文のメールをいただいて、それでも「僕はちょっと……」と連絡したら、またさらに熱意のある思いをメールでいただいて……。そのとき「この情熱には懸けるべきだな」と思ったんです。

菊地:謙さんには長文のメールを出せばいいんですね?(笑)

渡辺:いやいや、そういうことではなくて(笑)。長ければいいってものでもない。最終的には熱量みたいなものは、大きな決断の一つの要素ではありますね。

菊地:確かに人の思いなんですかね。

渡辺:そうだね。思いと熱意……みたいなものが人を突き動かすのかもしれませんね。

(取材・文:磯部正和 写真:高野広美)

ハリウッド共同制作オリジナルドラマ『TOKYO VICE Season2』は、WOWOWにて4月6日より毎週土曜21時放送・配信(全10話)〔第1話無料放送〕。WOWOWオンデマンドにて、Season1全8話配信中。

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